「あの人のここ見といて」 受付嬢に取引先客の“調査”を頼むエリート社員の狙い

 
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 【元受付嬢CEOの視線】 お客様や社員の「顔と名前」を覚えるため、普段から周りをよく観察している私たち受付嬢。常にアンテナを張っている私たちのところは、社員からいろんな“調査依頼”が舞い込みます。前回は面接に来た学生さんたちへの調査についてお話しましたが、今回は、社員に依頼される「取引先のお客様への調査」についてご紹介します。なにも、いつも来客に監視の目を光らせているわけではなく、ドラマチックな演出のお手伝いをすることもあるんです。デキるビジネスマンからの相談は一味違いました。

◆「あの人のここ見といて」 エリート社員の依頼の狙い

 【調査依頼3】「どんなボールペンを使っているかチェックしてほしい」

 これはとても印象深い依頼でした。ある日、とあるエリート社員が受付にやってきて、「よく来社している●●社の▲▲さんって、分かるかな?」とたずねてきました。頻繁にいらっしゃる方なので分かると答えると、「▲▲さんが自分のボールペンを使っているの、見たことある?」と聞かれました。思い返すと、以前、そのお客様が自前のペンを持ち合わせておらず困っていて、受付のペンを貸し出した記憶がありました。それを社員に伝えると、「今度来社したときに、ボールペンを使っているか、もう一度見ておいてくれない?」と依頼をされたのです。

 当時、私が勤めていたその受付では、お客様が来訪した際に受付票を記入してもらっていました。そこではペンが必要になります。普段は受付の備え付けのペンを使ってもらうことがほとんどですが、混雑すると数が足りなくなり、お客様の自前のペンで記入していただくこともありました。

 さらに、そのお客様は打ち合わせ中にPCでメモを取っていたため、普段使っているボールペンを確認することができなかったそうです。それで、「受付で自分のペンを出したことがあるかもしれない」と相談にやってきたのです。

 その社員がここまでしてお客様のペンをチェックしたかった理由は、こういうことでした。ずっとお世話になっていた取引先の担当者が栄転することになり、担当を外れてしまうのでお礼に何かをプレゼントしたい。仕事でお世話になったので仕事で使えるものがいいと考え、「ボールペンはどうか」と思いついたということです。

 早速、受付のみんなに共有しました。週に1、2度くらいの頻度で来社していた方だったので、幸いにも再確認する機会に恵まれました。社員の方に「ペンは持ち合わせていなかった」と伝えると、後日、無事にボールペンをプレゼントしたそうです。お客様にも喜んでもらったようで、協力してくれてありがとうと、とても感謝してくださいました。デキるビジネスマンからの相談は一味違いますね。

◆会食よりも効果的なサプライズ?

 【番外編】「お客様の誕生日には…」

 私が以前勤めていた某企業では、社員やお客様の誕生日をとても大切にしていました。長く担当されているお客様の誕生日前後では、毎年必ずサプライズケーキをお出ししていました。受付でロウソクに火をつけ、会議室の外で待機していた社員らが、会議が終わる頃に歌をうたいながらケーキを中に運ぶんです。私たち受付嬢も一緒にお祝いしたこともありました。お客様は“嬉し恥ずかし”な様子の方もいらっしゃいましたが、歌をうたいながら祝われたら、誰でも笑みがこぼれてしまうものです。

 このサプライズをすると、担当社員とお客様は、また一層深い絆で結ばれるように見えました。もしかして、会食よりも相手の懐に入りやすくなるには効果的かも……? 受付嬢の間でも「もう去年のお誕生日から1年なんだね!」なんて盛り上がり、その企業の恒例行事となっていました。

 起業してからよく思うのですが、この世に生まれて来てくれたから一緒に仕事ができていると思うと、社員やお客様の誕生日は自分の誕生日以上にお祝いしたくなるものです。私たち受付嬢は、お客様と深い関わりを持ちづらい職業ですが、勤め先の社員とお客様が関係を深めるシーンを間近で見てきたおかげで、受付での接客の際もより深いおもてなしを心掛けられていたのだと思います。

 みなさんは受付嬢になにかを依頼したことはありますか? 実はいいネタを持っていたり、水面下で動きたいときには部下よりも使えたりするかもしれませんよ……。

【プロフィル】橋本真里子(はしもと・まりこ)

ディライテッド株式会社 代表取締役CEO
1981年11月生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。11年という企業受付の現場の経験を生かし、もっと幅広い受付の効率化を目指し、16年1月にディライテッドを設立。17年1月に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。