中年よ、紅白“マウンティング”合戦に備えよ いまさら福山雅治に「チイ兄ちゃん」と言う奴…

 

常見陽平のビバ!中年

 師走である。今年も『NHK紅白歌合戦』が迫ってきた。毎年、どちらが勝つか楽しみでしょうがない。そう、紅白とは闘いなのだ。

 今年は、引退を表明した安室奈美恵が出演するのかどうかに注目が集まった。視聴率40%をとれるのかという点も毎年必ず話題をさらう。「国民的」なるもののあり方や、存在意義が問われる今日このごろだが、思わず何か言いたくなるというのも、『NHK紅白歌合戦』がいまだに国民的番組であることの証拠なのだろう。

 この「紅白」だが、中年はどのような態度で望むべきか。ずばり、ここは「うんちく」を活かした「老害芸」「マウンティング」で家族や友人、ネット民を圧倒するべきではないだろうか。そう、画面を見ながら一緒に見ている人にうんちくを語るとともに、SNSに上から目線で投稿する。これこそ、中年の紅白の楽しみ方だ。というか、私はそうしている。

 ここでの勝ちパターンは「HMV」だ。昔、渋谷にあったCD販売店のことではない。「ひたすら」「昔話で」「ヴィクトリー」なのだ。

 大晦日に、中年が語るべき「うんちく」はこれだ。老害芸でマウンティングなのだ。

◆出演者がやらかしたら「桑田佳祐よりマシ」とマウンティングする奴

 紅白では数年に一回、意図的に(あるいは結果として)、やらかす出演者がいる。もう10年くらい前だが、DJ OZMAが一見すると全裸に見える着ぐるみ軍団で登場し、物議をかもした。

 この手のハプニングに対して、中年はあくまで昔話で対抗するべきだ。「あの年の○○に比べると、マシ」と言い放つのだ。

 よく語られるのは、1982年にサザンオールスターズとして出演した桑田佳祐だ。白塗りに和服で登場し、『チャコの海岸物語』を演歌調で歌い、間奏では「とにかく、受信料は払いましょう!」「裏番組はビデオで観ましょう!」などと語った。NHKには苦情が殺到したという。

 桑田佳祐は、2015年にもサザンオールスターズとして出演。その際は独裁者を想起させるチョビ髭で『ピースとハイライト』を歌い物議を醸したが。ただ、わかっている中年は「1982年のサザンよりはマシ。桑田も大人になったね」と流したことだろう。

 同様に語り草になっているのが、1985年の吉川晃司だ。白組のトップバッターとして『にくまれそうなNEWフェイス』を歌った。シャンパンを撒き散らしながら、真っ赤なスーツを着て登場。客席に飛び降りる、ギターに火をつけ破壊など、ロックな展開だった。あとに出演した河合奈保子が混乱したり、ステージがビショビショでシブがき隊が転んだりと、他の出演者にも迷惑をかけた。

 もし、今年やらかす奴がいたとしても、中年は「まだまだ桑田佳祐ほどの玉じゃない」「吉川晃司こそ真のロック」などとクールに吐き捨てなくてはならない。さらに「今ではあいつらも、俺も大人になったけどな」と付け加えると君はカンペキさ。

◆いまさら福山雅治に「チイ兄ちゃん」と言う奴 さらに星野源を攻撃

 いまや国民的タレントである福山雅治だが、中年にとってはフジテレビ系のドラマ『ひとつ屋根の下』の「チイ兄ちゃん」の印象が強い。福山雅治が江口洋介、いしだ壱成、酒井法子、大路恵美、山本耕史が兄弟という、普通に考えたら「そんな家族、いるのか」と思ってしまう一家だった。亀田三兄弟に対して人数でもレベルでも負けていない。

 大河ドラマの主役をやろうと、大ヒットを飛ばそうと、ギャラクシー賞を取ろうと、中年にとっての福山雅治は「チイ兄ちゃん」なのだ。「ましゃ」などと呼んではいけない。

 さらに、星野源について福山雅治と比較し、攻撃せよ。「チイ兄ちゃんに比べると、星野源は演技も歌も下ネタもまだまだだね。踊りはいいんだけどさ」と吐き捨てよう。この「踊りは評価している」という「ちゃんと部下の頑張りを見ている上司」風の振る舞いこそ、中年の余裕、貫禄である。

◆「松田聖子と郷ひろみは付き合っていた」など80年代の芸能ネタを言う奴

 今どきの大学生でも知らない80年代の芸能ネタは紅白に関連してこそ披露するべき。「へぇ、そうだったんだ!」というふうになる。

 今年のラインナップから言うと(いや、だいぶ前からかちあっていたが)、松田聖子と郷ひろみが昔、交際していたなどは若者にはバカウケ。冷え切った夫婦関係もホットにする一撃である。息子、娘がいない隙に「二人は破局したけど、俺たちはちゃんと続いているね」なんて言うと効果てきめん。夜の営みは盆と暮れだけという夫婦も燃え上がるはずだ。

 他にも、松たか子について今さら「松本幸四郎の娘」「AO入試のはしり」なども使える芸能ネタ。これぞHMV(ひたすら昔話でヴィクトリー)だ。

◆若手のSHIHAMO、WANIMAを80年代のバンドと比較する奴

 今年も若者に人気のロックバンドが出演する。10代女子から人気のガールズバンド・SHISHAMOと青春パンクバンド・WANIMAが初出場だ。いくら息子や娘が夢中になっていようとも、中年はここで何か言ってやらなくてはならない。

 「プリプリに比べると華がない」「SHOW-YAと比べると演奏力で課題があり。このギタリストは速弾きができない」「ユニコーンに比べるとインパクトが薄い。このボーカルの子は奥田民生みたいにはブレークしないだろうな」「要するにこいつら、21世紀のジュンスカ(JUN SKY WALKER)じゃん。ブルハ(ブルーハーツ)ほどのカリスマ性はない」などなど、ひたすら昔のバンドと比較し、難癖をつけろ。

 しかし、これでは単に言いがかりになってしまう。ここではツンデレが必要だ。ツンドラは避けなくてはならない。「まあ、今どきの子は、YouTubeみて練習しているし、マルチエフェクターも充実しているし。いきなり演奏力はあるよね」など、褒めつつ見下す、と。

 「家族に嫌われたくない」という、チキン野郎のアナタ、まずは初出場のエレファントカシマシと比較することから始めよう。「エレカシが積み重ねてきた音の厚み」「紅白をライブハウスにしちゃうのが、奴らの凄み」などと語ると、まだ感じは悪くない。

 さらに、若い頃に肉体労働のアルバイトをして買った布袋寅泰モデルのエレキギターなどの思い出を話すと破壊力バツグン。実際はFのコードを押さえられずに挫折したとしても、息子・娘には尊敬されること間違いなし。

◆X JAPANの20年前の解散について語りだす奴

 そういえば、X JAPANが解散したのは20年前の12月だった。あの時は東京ドームライブの後、紅白出演だった。

 80~90年代のX JAPANの思い出とともに語ると完璧。「昔はXだったんだぞ」といううんちくや、「(あとから入った)HEATHもSUGIZOも、X JAPANの看板に負けていないよね」など上から目線で評価するのだ。1998年に亡くなったhideの思い出話も挟むこと。

◆紅白出場がなかった小沢健二に関連して渋谷系のうんちくを話す奴

 10代の頃に渋谷系を聴いた人たちが、もう中年になっている。会社で管理職になっていたりする。もともと渋谷系には面倒くさい空気が漂っているのだが、中年となったファンたちはとにかくうんちくを語りたがるので面倒くさい。

 最近の紅白では、サプライズ出演や特別枠での出演がありえるので若者風に言うと「ワンチャンあるで」ということなのかもしれないが。ここで「オザケンは紅白に出なくてよかった」論をとうとうとSNSに投稿してこそ、渋谷系中年だ。さらに、Cornelius(元フリッパーズ・ギター小山田圭吾)のことなんかにふれる、と。

 この、出演しない奴に対しても何か語るというのが、中年の真骨頂だ。しかし、渋谷系のうんちくがいまや老害芸になっているというのも感慨深いものがある。

 まだまだあるが、この辺で。さあ中年よ、紅白マウンティング合戦に備えよ!

【プロフィル】常見陽平(つねみ・ようへい)

千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

常見陽平のビバ!中年】は働き方評論家の常見陽平さんが「中年男性の働き方」をテーマに執筆した連載コラムです。更新は隔週月曜日。