うわさの「一流営業マン」はチャラ男だった 「スーツを一着も持たない」男の仕事術

 
船橋貴人さん(左)と橋本真里子さん

 【元受付嬢CEOの視線】 一流の男は、カバンの下にハンカチを敷く--。前回ご紹介した、元受付嬢の橋本真里子さんが衝撃を受けたというあの営業マンを覚えているでしょうか。2018年を迎えて一本目の今回は、うわさの営業マンと橋本さんが「デキる人の仕事術」について対談する特別企画をお送りします。

 橋本さんが「一流の男」と称賛してやまない船橋貴人さん(33)は、新卒から不動産業界に入りこのかた11年、現在は転職して3社目の米不動産サービス大手で仲介営業を務める中堅社員です。黒髪短髪の好青年がやってくると想像していましたが、そこには毛足を遊ばせた“チャラ男”らしき姿が……。右手には天然石のブレスレット、左手にはビッグフェイスすぎる腕時計とかなり胡散臭いのです。一体何者なのでしょうか。

◆いまも生きる「先輩の叱責」

【橋本】船橋さんとは以前から知り合いでしたが、ちゃんとご挨拶したのは私が独立した後なんです。事務所の移転先を探しているときに、船橋さんにご依頼したんですよね。

【船橋】法人向けの不動産仲介の仕事をしているので、物件をご紹介しましたね。

【橋本】その際、事務所に打ち合わせに来たときも、カバンの下にハンカチを敷いていたんです(笑)。そんなご丁寧な方、なかなかお見かけしないですよね。その習慣はいつからなんですか?

【船橋】さかのぼること約10年ですが、新卒のときに先輩から学びました。不動産業界にいると、営業先はいつも「事務所」とは限らず、例えばオーナーさんのご自宅に上がることがよくあります。

新人の頃、オーナーさんのご自宅に先輩と同行した際、椅子にカバンを置こうとしたら、先輩に「お前はアホか」と叱責されました。「営業カバンは電車の床に置くこともあれば、トイレの洗面台周りに置くこともある。それを自分の家に置かれたらどう思う?」と指摘されたんです。

そう言って先輩はバッとハンカチを広げて、その上にカバンを置いたんですよ。それを見て「その通りだな」と腑に落ちました。それからずっと実践しています。

【橋本】ほかにも船橋さんは「ザ・デキる営業マン」の片鱗がいろいろあるんですよ。中でもメールの返信がとにかく早い。レスが早い人はデキる人が多いですよね。

【船橋】僕にとって、レスは一番大事な項目です。新卒で入った会社は「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」っていう社内標語があって、中でも「すぐやる」は特に気をつけています。

レスが遅い人っているんですよね(笑)。でも、人って早く答えを欲しいじゃないですか。なので、僕は土日や夜間も対応できるように、取引先との連絡はメールじゃなくてLINEなどのメッセンジャーアプリでも対応できるようにしています。

◆大手不動産に転職したら受付嬢の反応が…

【橋本】不動産営業はキツいとよく耳にしますが、船橋さんはなぜその環境に飛び込んだのですか?

【船橋】学生の頃は不動産に全く興味がなく、就活中は大手電機メーカーの内定をもらいました。

大学4年で時間はあったので、こんなにも幅広く業界を見渡す機会なんてもうないだろうからと、好奇心からいろんな業界の説明会に回ってみたんです。

そんな折にふと立ち寄った不動産会社の説明会で、面白い社長がいたんです。このご時世に、プロジェクターに富士山を映して「日本一を目指す!」と豪語したり、途中で進行にミスがあった社員を、「バカヤロー!」と学生の目の前で叱りつけたり……。「この社長はなんだ?」と興味が沸いたんです。

興味本位で面接を受けたら通過してしまって、こういうのもありかなと。ベンチャー気質があったことと、内定をもらった電機メーカーと比べると企業規模も小さく、若手のうちから第一線で働けることが決め手となりました。

【橋本】入社してみてどうでしたか?

【船橋】体育会系のワンマン社長のもとで3年半働きましたが、新社会人だったこともあって一番刺激を受けた場所です。

その後、不動産仲介兼内装業の会社に転職し、2014年に縁あって現在の会社へと入社しました。

【橋本】不動産一筋なんですね。私は不動産会社で受付嬢をする機会はなかったなぁ……。

【船橋】受付嬢と言えば、ここだけの話ですが、いまの会社に入ってからは訪問先の対応が手厚くなったような気がするんです(笑)。

【橋本】詳しく聞きましょうか(笑)。

【船橋】計3社を経験して、前の2社は社名を知らない人もいますが、いまの会社は業界大手なんです。訪問先で名刺を渡したらこれまでとは違う対応になったので、これには驚きました。

【橋本】会社名で対応が変わると……。これは聞き捨てならないですね。結構あるあるかもしれないですが、やはり受付としてはダメですよね。

本来はどのお客様に対しても一定の接客をするのが受付としてのマナーですけど、やっぱり“人の子”なので、大手だからとかイケメンだからとか、自分が慕っている社員のお客様には丁寧にするといった受付嬢もいるんですよね。私は良くないなぁと思っています。

◆「スーツは一着も持っていない」

【橋本】不動産会社で営業マンとしてキャリアを積まれる中で、ライバルと差をつけるために意識していることはありますか?

【船橋】(編集者に向かって)今日初めて僕と会って、「こいつチャラ男だな」って思いませんでしたか?

(編集)正直、意外な方が登場したなと思いました。

【船橋】それが狙いなんです。営業って清潔感のある身だしなみが基本ですよね。僕みたいに、腕にジャラジャラと天然石のブレスレットをつけたり、こんなに大きい腕時計をつけたりする営業マンはあまりいません。これが会話のきっかけになるんです。

僕と初対面で名刺交換したときに「こいつなんなの?」って思われるはずなんです。でもしっかり商談することで「意外にチャラ男じゃないな」と少し見直してもらえます。ちょっと心を開いてくれたときに、「気になったんだけど、その時計は大きすぎない?」と話を振ってもらうきっかけになって、そこからフランクに雑談ができることも多いんです。

僕はスーツも着ないんです。一着も持ってないんですよ。

【橋本】印象に残りますよね。

私も外見と中身のギャップにはよく驚かれます。一度会ったら忘れない、顔を覚えてもらう戦略です。

逆に、地味にしていて得することはあるだろうかと疑問に思います。存在感がなくなったり、買いかぶられたりとあまりメリットがないんじゃないかな。

見た目は個性が出しやすいので、使えるものは使ったほうがいいですよね。私なんて、少し真面目なことを言っただけですごいって言ってもらえますしね(笑)。

客先相手だといいですが、社内の評判はどうなんでしょう。例えば、船橋さんは自分の第一印象をあえて“落とし”ていますが、新卒社員を指導するときになめられたりしませんか(笑)?

【船橋】そんなことないですよ。

新入社員の指導でいうと、当時新卒だった自分の目線で話すように気をつけています。あと、新入社員には上司の「過去の栄光」自慢は響かないので、言わないようにしています。

残念ながら、新入社員に対して過去の偉業を得意気に話したり、「これだから…」と説教したりする人はよくいるんですよ。

それならば偉業を成し遂げるにはどういう過程を経たかを話した方がいいし、いま彼らができることをアドバイスするべきですよね。彼らの目線に立って、3年・5年・10年後のプランを立てて、目標を達成するにはその時々で何をしたらいいかを助言すれば、彼らだって聞く耳を持ちます。

【橋本】若手社会人に、これだけは押さえといた方がいいというマナーはありますか?

【船橋】新卒社員には、営業先の応接間に通されてお茶を持ってきて頂くときに、必ず御礼を言うように指導しています。その方がお茶を淹れる時間と手間を考えて。あとはお茶も必ず飲みきります。お客様の大事な経費でお茶を出して頂いていますからね。

【橋本】受付から下げるときも大変ですからね。

【船橋】僕の同年代でも、そういう教育を受けていない人は意外に多いんです。僕らのような中堅社員になると、もう誰からも指摘されないでしょうし。

いまになって、新卒のときの教育がいかに大切だったかと思い知りますね。

◆同年代に問いたい 「あなたは全力を尽くしていますか」

【橋本】新卒のときに受ける教育は重要ですよね。

私も最初の現場の先輩に恵まれていたので、その後の受付人生に良い影響を与えてもらいましたが、そうじゃなかったら全く違う人生を歩んでいた可能性もあるなと思います。

【船橋】僕が新卒のときのOJTの先輩には感謝しています。新卒の頃なんて怒られてばっかりでした。それがいま生きていますね。

その先輩は遊び心もあったんですよ。先輩から「今から午後5時まで、何枚名刺もらえるか競争な。よーいどん」って言われて、それから5時に待ち合わせて一緒に「一枚、二枚……」って数えたりするのは、仕事の中に楽しさを見つけることを教えてくれたなと思っています。

僕も遊び心を持った指導をしつつ、言うところは言うようにメリハリはつけています。

【橋本】新卒のときの上司や先輩が、その後の社会人人生の試金石になりますよね。でも、新卒社員は上司を選べないんですよね……。

【船橋】上司と呼ばれる立場になったいま、同世代に問いかけたいことがあります。「あなたは仕事に全力を尽くしていますか」ということです。

僕ら30代って、一番脂が乗っている時期じゃないですか。20代のときはまだまだ甘くて、30代でようやく周りの人に少しずつ認めてもらえるようになってきた。なのに、ここで遊びたがる人も結構いるんですよ。

もう1時間だけ集中してやるか、土日に少しでも学びの時間を作るか--。そういった小さい積み重ねが10年後に大きな差をつける要因になっていたりする。

いま走るしかないです。時間は限られています。30代、いま全力で走りましょう。(聞き手 久住梨子/SankeiBiz)

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。

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