ブランド力低下
日産自動車の2019年3月期連結決算は最悪だった。売上高は前期比で3.2%減、営業利益は44.6%減、当期純利益は57.3%減。“技術の日産”は、販売的に暗い数字が並ぶ。
決算発表の壇上でも、西川広人社長は衝撃的なコメントを口にしている。
「元トップの判断で、新興国での成長に力を注ぎ過ぎた。そのことで、新車の開発が疎かになった。無理な拡大路線を歩んだことが仇となった」
西川社長の言葉を要約すれば、諸悪の根源はカルロス・ゴーン前会長にあると言いたげだ。拡大路線も新興国重視も、すべてゴーン前会長の方針が強権的に発動され、異論を唱えることが許されなかったと。
ゴーン前会長が要求する台数ノルマを達成するために、不用意にレンタカーなどのフリート販売に依存せざるをえず、結果的に利幅が減り、ブランド力を低下させた。
ユーザーが求めるクルマがなく、所有する車の下取り価格も大幅に下落した。日産ユーザーは、自家用車の塩漬け状態に苦しんだ。売るに売れない。だから買うに買えない。
それが証拠に、稼ぎ頭の北米での販売台数が144万4000台で9.3%減、欧州が14.9%減、中国と日本がかろうじてプラスに転じたが、トータルで見れば目を当てられない数字が並ぶのだ。
欲しくなるクルマが少ない
実際それは、ゴーン前会長がトップに立ってからの車齢(フルモデルチェンジまでの年月)がおぞましいことになっていることでもわかる。日本では車齢4年~5年が、新鮮味を薄れさせない常識的なサイクルである。だというのに日産は10年超えのモデルも少なくない。OEM商用車を除くと、最長はGT-Rの11年8カ月。フェアレディZは10年8カ月と超ロングタームだ。キューブは10年9カ月。NV200バネットワゴンが10年3カ月である。塩漬けで売るに売れず買うに買えないばかりか、そもそも買いたくなるクルマが少ないのである。
GT-RやフェアレディZといったマニア向けモデルは、車齢が長くても許される。GT-Rはイヤーモデルとして進化を続けているし、フェアレディZに至っては、販売を継続していることそのものに感謝したいほどである。車齢が短い方が優れているとは無条件には思えない。長く愛されることも素晴らしい。
だが、量産が期待されるキューブが10年9カ月も放置され(※今月に入り、年内で生産終了することが報じられた)、月産1万台もクリアするであろうマーチの車齢が9年1カ月なのである。フーガ、ジューク、エルグランドも8年超えである。ノートe-POWERのような起死回生の一発もなくはなかったが、それすらも現行型ノートに新技術を盛り込んだだけの延命措置ととれなくもない。新鮮味が薄れ、ユーザーが離れてしまうのも納得するのである。
ジュークは今秋全面改良か
だが、ゴーン前会長の実権が剥奪されたいま、車齢改善への施策が進められるであろうことは明白だ。西川社長は大胆に、この数年で車齢を3.5年に引き戻すと宣言した。車齢9年1カ月のジュークも、今秋のフルモデルチェンジだと噂されている。つい最近、発売目前の開発車がスクープされたばかりだ。それ以外の華やかな噂がないのが寂しいが、西川社長の発言が本当ならば、これから魅力的なモデルが次々と誕生するに違いない。
そもそも、当時ルノーの上席副社長であったゴーン前会長が日産最高執行責任者に就任した1999年3月、コストカッターとしての能力が期待されていたのであり、販売能力は未知数だったように記憶している。実際に「コストは下げるけれどいい商品は作ったことがない男」と囁かれてもいた。奇しくも、それが現実のものとなったのである。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。