今秋発売の日産・スカイラインに搭載される予定の先進運転支援技術「プロパイロット2.0」がとんでもないことになっている。
矢沢永吉が両手をハンドルから離して「やっちゃえ日産」と呟く。その刺激的なCMで印象の深い日産肝入りの先進運転支援技術がさらに進化して搭載されることになったのだ。
車線中央を安定して走行
プロパイロット2.0の最大の特徴は、「3D高精度地図データ」が採用されていることだ。これによって、これまでできなかったハンズオフ(手離し運転)の領域が広がったのだ。これまでのような、カメラとレーザーだけでは限界がある。“見て走る”ではなく“先を見て走る”である。
最大の驚きは、高速道路をハンズオフで走行可能なことだ。BMWやアウディも同様な機能を発表したものの、速度制限がある。渋滞路に限定されている。だが日産のハンズオフは、法定速度内+誤差10km/hならば、ハンズオフでの走行が許される。カーナビを設定すれば、ハンドル操作をせずとも、目的地まで運んでくれるのだ。
実際には、車線中央を正しく安定して走ってくれる。他メーカーにあるような、左右に揺れるようなことはない。ピンボール感覚はない。車線内の中央を忠実にトレースする。これまでのどのクルマよりも安心してステアリングを任せることができた。
3D高精度地図データが路面の曲率や傾斜まで把握しているから、先を予測しながら走行してくれる。路面が傾いていたのならば、クルマが流れないようにあらかじめ身構えてくれるのだ。この機能が効いているのだろう。
世界初の技術
仮に、前方に遅いクルマがいた場合には、自動で追越しまでやってくれるというサプライズも。もちろん前後左右の安全は、クルマがセンシングしてくれる。
カーナビが誘導するICが近づけば、徐々に追い越し車線から走行車線に移動する。さらに、ランプウェイに誘導してくれる。そればかりか、カーブに適した速度まで減速してくれるのだ。例えば、東名高速から圏央道を経由して中央道に乗り入れる…、などという複雑なルート走行もこなす。両手を膝の上に置き、アクセルペダルにもブレーキペダルにも触れずにである。世界初の技術である。
ここまでいくと、「スマホ運転」が可能だな、などと危険な発想をしてしまいそうになって頭を振った。あぐらをかいて、メールのやりとりをしてしまいたくなるに違いない。それほど精度が高いのである。最終的にはドライバーに責任が委ねられるレベル2ではあるが、近い将来の自動運転が目前に迫っていることを知るのである。
こうなると、はたして安全なのかと疑いたくなる。というのも、「リスク・ホメオスタシス理論」が脳裏に浮かぶのである。
リスク・ホメオスタシス理論とは、1982年にカナダの学者が提唱した理論である。自動車の安全性を高めても、ドライバーは安全になったその分だけ利益を求めて危険性が高い運転をする。それによって、事故率は一定の範囲を超えないとする考え方だ。
“危険行為”も監視
ABSがあるからブレーキ操作が粗くなる。障害物ストップ機能があるから後方確認をしなくなる。ハンズオフで誘導してくれるからよそ見をする。そんな危険性が心配される。だから、日産のこの技術では事故率はさがらない。スマホ運転を助長させるだけである。そう心配した。
た・だ・し…。そこはそこで日産は、本末転倒の技術に埋没しないように手を打った。ダッシュボード中央のカメラが、ドライバーの前方注意を絶えず監視している。よそ見運転をすると機能が遮断されるのである。
ためしに、眼を細めたり横を向いたり、あるいは膝下に視線を落とすと、前方注意喚起の警告音が鳴る。それを無視していると機能が解除される仕組みなのである。だからスマホ運転はできない。賢い機能である。
ちなみに、サングラスをして実験しても、結果は同様だった。赤外線での監視だから、レンズも通す。リスク・ホメオスタシス理論を覆してみせたような気がした。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。