「カッコいい」と思わない人がいるのか
出るのか出ないのか…。上がっては消え消えては浮かびあがった「レクサスLCコンバーチブル」がついに、11月に開催されたロサンゼルス国際自動車ショーで発表になった。
レクサスブースでスポットライトを浴びたショーモデルは実に妖艶な姿をしていた。クルマのスタイルやデザインは、基本的に個人の主観による。好みがすべてである。答えなどない。だが、このスタイルを観て、素直に「カッコいい」と思わない人がどれだけいるのだろうか。実際に、ステージ上でアンベールされると、会場全体から感嘆の声が上がった。そして割れんばかりの拍手に包まれたのだ。
それもそのはずで、レクサスLCコンバーチブルは実は、ベース車両である「LCクーペ」の開発段階から企画されていたという。2017年にクーペをデビューさせたあと、あとから付け加えるように開発したのではないのだ。美しく仕上がったのは、それが理由だと言える。
オープンカーの製作は、あとから屋根を切れば成立するような単純なものではない。例えば、屋根の収納ひとつにしても、あらかじめクーペの開発段階からコンバーチブル化を前提に、幌をどう折り畳みどこに格納するかを考えてデザインする必要がある。それを怠ると、コンバーチブル化された時に不自然な個所が残る。レクサスLCコンバーチブルのデザインに無理がなくスッキリとしたのは、そうした事前の準備があったからなのだ。
屋根というクルマにとって最大の剛性パーツを失うことで、ボディ剛性は約50%も低下する。それを床下やバルクヘッドの補強で補わなければ走りの性能が悪化する。それを避けるためには、事前に補強パーツの組み込み部分を確保しておかなければならない。不自然な隆起がないのと同時に、ボディ剛性への対策がされていたことも素晴らしい。
例えば、フロントウインドーの角度や幅さえも、開発初期から予測していたという。クーペとは異なり、解放感を高めつつ、風の巻き込みを抑えなければならないコンバーチブルでは、ウインドーのわずかな角度すら影響を受けるからである。
「LC F」投入への伏線か
過去にはこんな例もあった。燃料給油ホースはたいがい、車両のリアクオーターにある。キャップから燃料タンクまで太いパイプが伸びている。そのパイプが、幌格納スペースに干渉する。結果的にボディが亀の甲羅のように盛り上がってしまった。それにより、流れるようなスタイルが阻害される…、というような弊害が起きる。レクサスLCはコンバーチブル化を見越して開発されたことで、そんな見苦しさを回避できたのである。“評判の高さに気を良くして、あとから幌を付け足したモデル”とは異なる完成度であるわけだ。
ちなみに、ルーフはメタルトップではなく、キャンバストップである。クーペとの差別化をするためには正しい配慮である。コンバーチブル化をサプライヤーに丸投げするのではなく、レクサス工房が自ら手掛けている。
エンジンはV型8気筒5リッターエンジンのみだ。ハイブリッドの選択肢はない。10速オートマチックとの組み合わせだ。走りも整っていると予想する。
実は個人的には、レクサスLCコンバーチブルの完成は、レクサスLCの次なる刺客への事象であるような気がしてならない。つまり「F」の称号を冠したハイパフォーマンスモデル「レクサスLC F」のデビューへの伏線ではないかということだ。
開発責任者の武藤CEは、クーペ開発時点からボディ剛性を確保していたという。さらにボディ補強も加えたという。つまり、さらにハイパワーなLC Fにその細工は活かされると予想するのである。レクサスLCコンバーチブルのデビューは2020年の夏だと発表されている。そしてその後…。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。