クルマ三昧

僕は未だに緊張するけど… 日産テストコースの意外な“変貌ぶり”に驚き

木下隆之

 世界の自動車メーカーは、けっして漏えいが許されない技術を持っている。年間開発費が数千億円に達し、膨大な数の特許を取得し、ライバルを出し抜く技術が生命線である自動車メーカーにとって、秘匿項目は少なくない。

神奈川県にある日産の追浜試験場「グランドライブ」
神奈川県にある日産の追浜試験場「グランドライブ」

 日産は入場制限がゆるい?

 中でも極秘とされている代表が、発表前の開発車両であろう。一般的に、車両の開発には3年から5年の歳月が必要だ。エンジン開発には十数年間単位の時間が費やされる。発売前には、数100万キロにおよぶテストドライブが欠かせない。そんな発売前のテスト走行は最大の秘匿であり、漏えいは死活問題なのだ。

 だというのに、日産はかつては公開が許されなかったテストコースの一部を、一般公開の場とした。神奈川県横須賀市夏島町にある「日産グランドライブ」がそれ。我われ自動車ジャーナリスト達にも度々公開され、誌面に登場することがある。

 先日は、発表前の先行開発車両である「日産リーフ プロトタイプ」の試乗が日産グランドライブで行われた。写真撮影も許可された。もはや秘匿のテストコースといった緊張感はない。

 テストコースや技術センターの入場制限は厳しいのが一般的である。入場するには特別な許可が必要だし、事前に名前や住所といった個人情報が確認される。入場前には身元があらためられる。携帯カメラのレンズには、撮影ができないように保護シールが貼られるのが一般的だ。

 以前、日産の頭脳組織である「日産テクニカルセンター」に入場する際に、こんなチェックを受けた。カメラ付き携帯電話や録音機材の持込が許されない。入口では監視員の入念な検査を受ける。持ち物検査もあり、不必要なものは入場門のロッカーに預けさせられる。

 僕は係官に背を向け、バックから携帯電話やカメラを抜き取り、ロッカーに収納しようとしていた。その時、ふと人の目線を意識した。背後を振り返った。すると、警備の担当者は視線を上に向けていた。天井には斜めの鏡が貼りつけてあり、背を向けて携帯をロッカーに預けようとしている手元が映っていたのだ。ちょっと言葉が悪いかも知れないが、まるで刑務所の刑務官が受刑者の持ち物を監視するようにしていたのである。それほど技術センターは、極秘情報がけっして漏れることが許されない組織なのである。

 まるで迷路のように複雑

 何度か、デザインセンターを訪問したことがある。そこでもセキュリティーは厳重で、写真撮影は禁止されていた。そればかりか、デザインセンター内部は迷路のように複雑に入り組んでおり、ひとりでは中枢部に行くこともできないばかりか、勝手に退出することもできない。難攻不落な城のように、複雑にデザインされているのである。

 というように、自動車メーカーの開発組織は厳重なセキュリティーに守られているというのに、日産グランドライブはいたってオープンなのである。

 じつはかつて僕が日産契約ドライバーだった時代、追浜のテストコースで開発中のレーシングカーのテストに明け暮れたことがある。スポーツ車両開発部と呼ばれる組織が追浜にあり、そこで開発されたマシンを、その脇にある追浜テストコースで走り込んでいたのである。

 その跡地が、今は「日産グランドライブ」になった。今でも僕は、この地に足を踏みいれるとどこか緊張するのだ。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】こちらからどうぞ。