クルマ三昧

トヨタGR関係者の鼻息が荒いワケ 販売店の“面倒”を解消する「型式認定」

木下隆之

 「型式認定」とは

 トヨタC-HRがマイナーチェンジされるのに伴い、「C-HR GRスポーツ」のデビューが発表されたのは2019年11月のことだった。試乗会場には、たくさんのGR(※)関係者が集まってきており、さながらGR祭りの様相を呈していた。それほど「C-HR GRスポーツ」にかける意気込みが高いのだろう。※「GR」とは、トヨタがモータースポーツで培った技術を注ぎ込んだスポーツカーブランドのこと

 実はこの日の試乗会には、もう一台の目玉があった。同じくGRが開発した「ダイハツ・コペンGRスポーツ」も準備されていた。華々しいGR祭に感じたのは、GRニューカマーが二台も揃っていたからである。

 それにしても興味深かったのは、担当者が頻繁にこのセリフを口にしていたことだ。

 「型式認定を取得したんですよ」

 聞けば今回デビューする「C-HR GRスポーツ」も「ダイハツ・コペンGRスポーツ」も、持ち込み車検ではなく型式認定されたのだというのだ。車両説明のプレゼンでも、熱くそのことを語っていたほどである。型式認定はそれほど重要なのか…。

 実は、購入して乗りまわすユーザーにはそれほど影響はない。販売店で契約書にサインして、納車を待つというプロセスに変更はない。影響があるのは、販売店のほうである。

 自動車型式認定を取得するには、製造者(トヨタやダイハツ)が保安基準や環境適合性などの審査を受け、型式認定番号を取得する。それが型式認定だ。

 認定されれば、車両ナンバーの交付を受ける場合に、運輸支局に車を持っていく必要がなく、書類だけで取得できるのである。いわば公的なお墨付きだ。認定されたモデルはすべて基準を満たしているので、いちいち検査しないでね、というわけである。

 自動車税などにも影響

 一方、製造者が型式認定を受けないと、「C-HR GRスポーツ」や「ダイハツ・コペンGRスポーツ」は改造車と見なされ、車両ナンバー取得の際には運輸支局に、一台一台クルマを持ち込まなければならない。燃費等も実測するために、場合によっては環境基準レベルが変わることも考えられる。自動車税などにも影響するわけだ。

 そう、型式認定と持ち込み登録には、ユーザーにはまったく影響しないが、販売店の担当者にとっては大きな違いがある。つまり、お客様に対しては無関係なことであるからこそ、これまで語られてこなかったわけである。

 実はこれ、そのコストが密かに値引きやサービスに影響され、間接的に被っている可能性は否定できない。型式認定のメリットは販売店のコストにある。そしてそれは同時に、製造元、つまりトヨタやダイハツにも悪影響を残す。

 販売店の担当者は、「C-HR GRスポーツ」を一台売るよりも、ノーマルのC-HRを売ったほうが、持ち込み登録をしない分だけ労力に優しい。だったら、ノーマルをセールスしたくなるのは人の性だろう。

 というようなデメリットを解消する可能性が、型式認定取得には隠されているのである。我々には大勢の変化はないが、改造車として一括りにされてきたGRポーツが、晴れて公的に認定されたことはちょっと誇らしい。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】こちらからどうぞ。