デミオはマツダ2、アクセラはマツダ3に
マツダ2が走る姿を見て、迷わず車名を言い当てられる人は少ないのではないだろうか。マツダのモデルはデザインテイストが共通しており、目の前をかすめるように駆け抜けただけでは、それぞれの個性の違いが迫ってこない。脳裏に刻まれる残像が似ているからだ。
そもそも、マツダ2の名が浸透していないような気がする。マツダのコンパクトモデルの代名詞は「デミオ」であろう。遡れば「ファミリア」になる。それぞれは愛らしいネーミングで一世を風靡した。それが「マツダ2」と改名しつつ、まだ時が経っていない。デミオがマツダ2になり、アクセラがマツダ3になり、アテンザがマツダ6になった。クロスオーバー系は、全車に「CX」を名乗ることになり、小さい順からCX-3、CX-30、CX-5、CX-8へとサイズが拡大にするにつれて数字も大きくなる。浸透するまでには時間が必要だろう。
ただし例外がある。「日本でのみ」という注釈付きだが、ロードスターは海外でのネーミングである「MX-5 Miata(ミアータ)」にはならず、そのままロードスターを引き継ぐ。ロードスターはその名が浸透しすぎていることもあり、改名は見送られた。これからもロードスターはロードスターと呼ばれることになる。これによって、軽自動車や商用車を除くマツダの乗用車の車名はすべて、数字とアルファベットの組み合せになった。
「デミオに乗りたい」から「マツダに乗りたい」へ
なぜマツダは、車名を改めることにしたのか…。その理由は、プレミアムブランドへの挑戦である。マツダブランドの浸透である。それぞれ独立していた車名を統一化によって、個々ではなく塊としてイメージを押し進めようという戦略なのだ。
世界の主要プレミアムブランドは、同様の思索を貫いていることが分かる。例えばBMWはほとんどのモデルを数字とアルファベットで表わす。記号性を与えることでブランド統一に成功した好例だ。ブランド巧者のレクサスも同様でIS、ES、LSとセダン系を「S」の記号で統一して成功した。アウディも同様である。それぞれの車名を浸透させるのではなく、ブランドを確立させるためにはこれは都合がいい。「デミオに乗りたい」ではなく「マツダに乗りたい」なのである。
メルセデスはもっと徹底している。Aクラス、Bクラス、Cクラス、Eクラス、Sクラスと、これも物の見事にアルファベットの若い順に車格が並んでいる。メルセデスのCクラスと聞けば、メルセデスラインナップの中でBよりも大きく、Eよりも小さいことがすぐに分かるという仕掛けだ。そんなブランディングに成功したメーカーの戦略をマツダは取り入れたというわけだ。
マツダの「魂動デザイン」
マツダはデザインも統一した。「魂動デザイン」というキーワードを掲げ、全てのデザインテイストを統一したのだ。マツダのデザインを束ねる前田育男取締役の旗振りにより、デザイン戦略も一糸乱れない。フロントグリルは、ホームベースを縦に起こしたような、ダイヤモンドの指輪を横から眺めたかのような、五角形グリルで統一された。
それで思い起こすのはやはり、ブランド巧者の面々である。BMWはキドニーグリルを徹底的に貫き通している。だからBMWは、初めてそのモデルを目にした時でさえ、BMWのモデルであることが分かる。目の前を駆け抜けた瞬間に分かるのが、デザインアイコンであり、デザインの統一化のメリットなのだ。
メルセデスやアウディは時代ごとに合わせてデザインアイコンを意図的に変更しているが、根底にはデザインの統一がある。巧みな筆さばきによってブランドを浸透させているのである。
マツダを象徴する色「ソウルレッド」
そんなマツダのブランド戦略はさらに徹底している。マツダの赤いクルマが増えたことを知る人は、センサーがかなり敏感な人だろう。マツダは自らのイメージカラーを「ソウルレッドクリスタルメタリック」に統一しているのだ。もちろんユーザーの嗜好に合わせるように様々なボディカラーの準備はしている。だが、カタログや展示モデル等は徹底してソウルレッドクリスタルメタリックに統一しているのだ。僕はいつしか「マツダ=ソウルレッドクリスタルメタリック」になってしまった。そう、マツダのブランド戦略は成功しつつある。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。