ガソリン大食漢のエスカレード
4月20日、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油先物価格が、1バレルあたりマイナスを記録した。瞬間的とはいえ、今でも25ドル/1バレル前後の低価格で推移している。
それに合わせ、日本のガソリン価格も低くなった。今年の1 月頃には約145円だった看板価格も、最近では約120円に下がった。地域によって価格差があるにせよ販売価格は低下した。クルマ主体の生活を送るビジネスマンには朗報だろう。
実はアメリカでは、30ドル/1バレルを境に途端に環境車と大排気量モデルの販売構図が動くと言われてきた。その件に関しては本サイト「クルマ三昧」の記事で紹介済みだが、ともあれ、30ドル/1バレルを下回れば大排気量のピックアップトラックの販売が波に乗り、上回ればハイブリッド車が息を吹き返す。そんなシーソーゲームが繰り返される。
プリウスとピックアップトラックの構図がそれをあからさまに現す。原油価格を日々調べながら車をチョイスしているわけではなかろうが、市場の購買センチメントは原油価格に敏感なのだ。
そんなこの時期、イメージ的にガソリン大食漢のキャデラック・エスカレードをドライブしてみた。全長は5195mm、全幅は2065mm、全高は1910mm。岩のような巨大な体躯である。コクピットに乗り込むにもコツがいる。ドアを開けると自動で足元にステップが迫り出してくる。そのステップを階段代わりに足を乗せる。いわゆるトラックによじ登る要領なのだ。それほど大きい。
エンジンはV型8気筒のOHVである。DOHCが常識のこの時代にいまだに旧態依然のOHVを採用していることも驚かされるが、排気量は6.2リッターに達するというから開いた口が塞がらない。最高出力は426ps、最大トルクは623Nmにも及ぶ。
意外とスムーズな走り
エンジンの回転フィールはもちろん軽快であろうはずもなく、高回転まで回す気にはなれない。低速での有り余るトルクを滴らせながら、ズシズシと地べたを揺るがすようにして走る姿が似合う。動物に例えれば、象の歩む姿に似ている。飛ばして飛ばせないわけではないが、あえて一歩一歩を確かめながら歩むような感覚がふさわしい。そうして走ると意外にスムーズに走ることが分かるのだ。
シフトレバーにはトーイングモードも備わっている。モーターホームやクルーザーを運ぶため、低速ギアを優先する機能がある。それを活用できるのは裕福な人に限られるものの、低回転トルクに余裕があることの証明でもある。
狭い日本での取り回しは?
ボディは巨大だが、乗り慣れれば意外に取り回しは悪くはない。道幅の狭い日本の道路では、その幅を持て余すこともあるものの、最小回転半径は想像するほど悪くはない。フロントタイヤは大胆に切れるのだ。幅は広いけれど、比率的には長くない。コインパーキングの幅には収まりづらいが、前後にはみ出すことはない。
車高が高い分だけ視点が高いことも魅力の一つだ。狭い日本であるにもかかわらず、不快な閉塞感がない。意外なメリットを意識することができた。
気になる燃費は…。市街地と高速を均等に4日間通勤に使ったところ、平均燃費は7.6km/Lだった。この値が経済的なのか大食漢なのかの判断に迷うところだが、2.7トンものボディをゆるゆると走らせた数値だと思えば悪くはないように思えた。
新型コロナウイルスに端を発した外出規制の最中、エスカレードの性能が生かされるレジャーに借り出せないのが残念だが、原油価格が低空飛行している今、ちょっと贅沢に巨大なSUVを転がすのも悪くはないと、見果てぬ夢を見た。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。