語り継がれてきたプロペラ説
「BMWのエンブレムの由来は?」-。その質問に、おそらく多くのクルマフリークならば「BMWは航空機エンジンメーカーが発祥であることから、プロペラが回るイメージに、青い空と白い雲が図柄としてデザインされた」と答えることだと思う。そこにBMW社の正式名称である「Bayerische Motoren Werke」の頭文字を組み合わせたのがBMWのエンブレムであると。
確かに1929年のBMWの広告には、飛行機の高速で回転するプロペラに、うっすらとBMWのロゴが浮かび上がるイラストが掲載されている。BMWが高性能な航空機エンジンを開発していたことを宣伝するためのポスターは今でも有名だ。
だが、これまで語り継がれてきた定説を覆す情報を得ることができた。BMWグループのクラシック部門ディレクターであるフレッド・ジェイコブス氏の話を聞くと、これまで常識とされてきた「青い空と白い雲説」が間違いであったことがわかるのだ。ジェイコブス氏はこう言う。
「BMWのロゴは、創業したばかりの1917年の10月5日に誕生しました。最初のエンブレムは、BMWの前身であるラップ社のロゴの円を受け継いだものなのです。外周の円が2本の金色のラインで縁取られ、その中にBMWの文字を配したのです」
それが本当だとすると、航空機のプロペラをイメージしたとする説は間違いだったことになる。だとするとなぜ、これまで航空機のプロペラをイメージしたとする説が正されることがなかったのだろうか。ジェイコブス氏は続けた。
受け継いできたからこその逸話
「長い間、我々は『BMWのエンブレムの起源がプロペラである』と言われていることについて、それを正す努力をしてこなかったからではないでしょうか(笑)」
それも納得する。我々はこれまでずっと、BMWのエンブレムが航空機エンジンメーカーであることの誇りであり、それを誇示するためのイメージだと伝え聞いてきた。そして高速で回転するプロペラの残像に描かれる青い空と白い雲が、BMWの爽やかなイメージと合致していたことで、信じて疑わずにきたのだ。BMWはそれを知っているのに、訂正せずにきた。だがその定説は間違いだったのである。
それを裏付ける証拠がある。BMWのロゴの決定したのが1917年の10月5日。飛行機のプロペラにBMWのロゴが浮かび上がる広告が制作されたのが1929年である。ジェイコブス氏の言葉が信用できるのである。
ちなみに、BMWのロゴは左上が青で、右上が白になっている。青はドイツ語で「Blau」、白はドイツ語で「Weiss」である。Bの下が青を意味する「Blau」であり、Wの下が白を意味する「Weiss」なのである。
デザイナーがわざわざそうしたのか、まったくの偶然なのかは分からないのだそうだ。ともあれ、エンブレムには伝統があり伝説がある。長い間モチーフを変えることなくエンブレムを受け継いできたからこその逸話だ。ブランドの神話はそうして作られる。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。