新型ウイルスに世界中が翻弄されている。ご多分に漏れず、世界各地で開催されるスポーツも例外ではない。ことごとく延期や中止に追い込まれている、僕が生業とするモータースポーツも例外ではなく、本来ならば3月に開幕するシリーズ戦も始まっていない。
だが、一部の国・地域での感染患者数の減少や治療方法の目処がつきはじめたことで、2020年のモータースポーツカレンダーが発表され始めている。アメリカの人気レースである「インディカー・シリーズ」はすでに開幕して話題を集めた。感染者最多であり、いまだに収束の気配のないアメリカが先陣を切ったことで侃々諤々議論されたが、動き出したことは明るいニュースとして報じられている。
とはいえ、無観客レースが基本であり、関係者の体調管理にも神経をとがらせている。まだ本格稼働には時間が必要なのかもしれない。
モータースポーツにも数々の障害
国内最大のメジャーレースであるスーパーGTは、6月27日、28日の両日、今年初めての公式テストが開催される。だが、無観客開催が前提であり、関係スタッフの数を絞っている。そればかりではなく、ネットを通じた日々の体調報告が義務付けられている。体温を測定し、報告の義務を怠れば、主要関係者ですら、テストの現場にすら足を踏み入れることが許されないという徹底ぶりである。
モータースポーツも数々の障害がある。メジャーレースは国内にとどまらず「世界転戦型」が多い。日本最大のイベントであるF1日本グランプリは、開催サーキットである鈴鹿サーキット(株式会社モビリティランド)が2020年レースの中止を発表した。ドライバーやスタッフが海外移動するのも困難である上に、戦うマシンの運搬も簡単ではない。マシンは基本的に1台だから、代替えがきかない。ホスピタリティという貴重な機材を運ばなければならないという事情もあり、海を渡るのは容易ではないのだ。
伝統的な「ル・マン24時間耐久レース」や「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」といった年に一度の祭典は、例年の春開催を見送り、秋に延期となった。だが、規模が大きいということもあり、果たしてどれほどのチームが現地にたどり着くことができるのかは未知数である。
僕が昨年参戦していた「ワールドチャレンジGTアジアレース」は、日本やタイや、あるいは韓国転戦型であったが、今年はマレーシアと中国だけに縮小しての開催が発表されている。いずれにせよアジア圏に限られており、世界転戦ほど移動距離は遠くはない。とはいうものの、検閲や機材運搬など、主催団体の頭が痛いところだ。
無観客レースでの弊害は少ない
サーキットは屋内イベントではないこともあり、策を講じれば安全が担保されるのではないかと楽観的な意見も少なくない。そもそも肉体と肉体のコンタクトスポーツではなく、マシンに乗るのは一人ということから、競技中のソーシャル・ディスタンスも確保しやすい。サーキットは基本的に遠隔地にある。観客席も広大であるから、間隔を開けての観客収容も無理難題ではなさそうだ。
無観客レースとはいえ、ネット配信しやすいという事情もある。もともと、レース中のコクピットの映像システムは充実している。戦うドライバー目線の映像をライブで配信することはすでに続けてきた。ラップタイムやマシンのコンディションなど、観戦をより演出する情報の公開は進んでいる。サーキットでなければ味わえない感動は現地に足を運んでこその魅力だが、自宅のモニターでの観戦も楽しめるように、すでに施策が行き届いている。リモート観戦による無観客レースでの弊害は少ないように思えるのだ。ともあれ、レーススケジュールが発表されたことは喜ばしい。遅れてきた開幕戦が今から待ち遠しい。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。