いま最も熱い販売バトルが繰り広げられている激戦区。それが全長4メートルをわずかに超えるコンパクトSUVクラスであろう。大きさに多少の差はあるにせよ、日産キックスをはじめ、ホンダのヴェゼルやトヨタ・レクサスUXなど、このカテゴリーが“ドル箱”とみた各メーカーがこぞって主力車種を投入。群雄割拠の様相を呈している。いわば大衆SUVクラスともいえるこのカテゴリーは圧倒的な販売台数を稼ぐことができ、企業としての存続をかけた世界なのだ。
小型セダンの座を奪い国民車の主流に
そもそもコンパクトSUVは、かつて趣味性の良い亜流だったように思う。発祥は三菱・パジェロだったとする説が有力だが、つまり、クロスカントリーモデルを都会で転がすことがオシャレとされた。それがいつしか、SUV、つまりスポーツ・ユーティリティ・ビークルという名で浸透。決して4WDでなくとも、クロスカントリー性能が秀でていなくとも、アクティブな雰囲気があればそれでよしとされた。
最近では、アクティブな雰囲気すら求められる要素ではなく、クロスカントリー色を極力抑えたアーバンSUVもジャンルとして成立。もはや、ちょっと背が高く荷室に余裕があればSUVと呼ばれる。かつて国民車の主流だった小型セダンの座を完全に奪ってみせたのである。
そんなコンパクトSUVは、各メーカーの“ドル箱”であり、それが証拠にコンパクトSUVを持たぬメーカーは少ない。国内だけではなく、欧米のメーカーも積極的にコンパクトSUVをリリースしている。群雄割拠の覇権争いが激しい。
そんな中、国内市場を振り返ってみればトヨタの一人勝ちである。8月の登録車販売ランキングを調べてみると、それはあきらかになる。1位はトヨタ・ヤリスだが、2位もトヨタのライズが食い込んでいる。9371台も販売しているのだから大成功だと言っていいだろう。3位もトヨタのカローラで、4位になってようやくホンダ・フィットが並ぶ。驚くべきはトヨタ・アルファードである。5位に躍進しているばかりか、決して低価格ではないのに安価なフィットに55台と迫る7103台も販売しているのである。続いて6位には「都会派SUV」を標榜するトヨタ・ハリアーがランクイン。トヨタ・ルーミーも7位と健闘した。
トヨタの牙城を崩す有力候補は…
トヨタの牙城は簡単には崩れそうもない。というのは、ヤリスの派生車種としてヤリス・クロスがデビューしたばかりだからだ。好調のヤリスをベースにクロスカントリー色を高めており、すでに販売計画を上回る受注を受けているという。近日中のランクインは確実なのだ。
コンパクトSUVからミドルSUV市場に対象を広げても形勢は変わらない。ライバルである日産は、エクストレイルのモデルチェンジが11月に控えているものの、それまで現行モデルでしのぐしかない。ホンダ・ヴェゼルがフルモデルチェンジされればそれなりの台数が期待できる。とはいえ新型に切り替わるのは2021年の1月で、評価の高い三菱・アウトランダーとて、フルモデルチェンジは2021年の5月の予定である。それまではトヨタの一人勝ちなのだ。
これまでコンパクトSUVの原稿を書くにあたって、「ドル箱のコンパクトSUV市場」などというフレーズを多用してきた。確かにそれは誤記ではなく、登録者ランキング上位をSUVが占めていることでも分かる。成長ジャンルでありメーカーにとっての“桃源郷“でもある。だが、そのオイシイ市場を独占しているのはトヨタなのである。その牙城をどのメーカーが崩すのか。今のところ有力な候補はいない。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。