クルマ三昧

逆走の高齢ドライバーに「逆走」をどう伝えるか 高速道で遭遇し思った難しさ

木下隆之

 高齢者の逆走事故が鳴りを潜めたような気がする。かつては高速道路や自動車専用道路を逆走する事故が頻繁に報道されていたが、最近は耳にすることが少ない。さまざまな逆走防止対策が効果を上げているようにも思う。

高速道を運転中、ラジオで「逆走車あり」のニュースが流れた。緊張が走った(GettyImages)※写真と本文は関係ありません
首都高の出口には、歩行者が紛れ込まないように「進入禁止」の看板が立っている=東京都中央区
逆走はインターチェンジや本線でのUターン、サービスエリアの進入路などで発生する(産経新聞社)※写真と本文は関係ありません

動線が複雑なスマートインターチェンジ

 高速道路の出口には、目立つように「進入禁止」の看板がある。歩行者が紛れ込まないようにポールも立っている。地面から突き出た杭を見て、進入した人はハッと我に返るのだ。側道から本線に合流する箇所には、逆走を防ぐため進行方向を示す矢印が路面にペイントされている。無意識に逆走してしまうドライバーや、うっかり進入してしまう歩行者への警告である。

 逆走はインターチェンジや本線でのUターン、サービスエリア(SA)の進入路などを中心に発生する。SAやパーキングエリア(PA)に設置されるスマートインターチェンジの誤進入対策も急がれている。スマートインターチェンジはETCの普及で急速に増えたが、SAでくつろぐドライバーと、先を急ぐドライバーが交錯する場所でもある。もともとのサービスエリアは、スマートインターチェンジを考慮してデザインされていないから、動線は複雑に絡み合っている。頻繁に利用する僕らでさえ、戸惑うことも少なくない。初見のドライバーには緊張感の漂う場所であろう。

 先日、逆走の場面を目撃した。高速道路を東に向かって走行中、ラジオ放送で「逆走車あり」のニュースが流れた。緊張が走った。

 僕は中央分離帯寄りの追い越し車線を走行していた。ラジオを聴き慌てて左側の走行車線に移り、路肩に沿うようにトロトロと走行したのである。事態に気がついた多くのドライバーがそうした。左側の走行車線は、低速の渋滞路のようになった。

 そんな時、である。前方から一台の軽自動車が走行してきた。そのクルマは、さっきまで僕が走っていた中央分離帯寄りの追い越し車線を、東から西に向かって、走行していた。つまりは逆走である。

思い出すだけで背筋に冷たいものが…

 老齢の男性が運転していた。目視で確認できるほどゆっくりと走っていた。緊張をしている素振りはなかった。淡々と、目的地に向かってクルマを走らせている、と言った穏やかな雰囲気である。走行車線で身をすくめている僕らとは対照的な、落ち着いた表情がかえって不気味だった。

 その時、はたと気がついた。その老齢の男性は、もしかしたら事故を起こすまで、自分が逆走していると気が付かないのではないだろうかと。というのも、男性は逆走の意識がないように思えた。自らの車線はガラガラに空いており、だが一方の対向車線は渋滞している。いわば、よくある一般道の渋滞にしか彼の目には映らないのではないか。そう想像したのである。対向車線が混雑しており、たが自分の進路である走行車線が空いていることは頻繁にあることだ。老齢の男性が目にしていた景色は、それと違いはないのだろうと。

 その後、大事故になったという報道もなかったし、高齢者の逆走というニュースも目にしなかった。幸運なことに、大惨事にはならなかったに違いない。

 ただ、それで安心していられないのも事実だ。逆走を予防する対策は進んでいるが、意識せず逆走してしまっているドライバーへ危険を知らせる施策がないからである。注意を呼びかける電光掲示板は、正しく走行しているドライバーでなければ確認できないような角度で設置されている。故に、掲示板で警告を発する手段はなく、警告灯を点滅させても、逆走してしまうドライバーが気がつくとは思えない。なんらかの手立てはないものだろうか。思い出すだけで、背筋に冷たいものが走る。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】こちらからどうぞ。