走行風でエンジン温度を管理
「マツダ3」の2020年モデルが公開された。
全長4460mmの4ドアハッチバックと、全長4660mmの4ドアセダンという2つの車形をラインナップするマツダ3は、先進的な技術が盛り込まれているのが特徴である。エンジンラインナップは、「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」と呼ぶ新世代のガソリンエンジンであり、電気モーターがささやかにアシストすることから「マイルドハイブリッド」のカテゴリーに属する。
パワーユニットはそれだけでなく、1.8リッターのディーゼルもラインナップ。マツダの新世代クリーンディーゼルエンジンは「SKYACTIV-D」と呼ばれる。駆動方式も、標準的なFFに加え、4WDも揃う。バラエティ豊かな構成が特徴なのだ。
しかも、先進技術はそれだけにとどまらない。「Gベクタリングコントロール」と呼ばれるのがそれで、コーナリングをエンジンからコントロールする。といっても、いわゆる能動的なトルクベクタリングとは異なる。一般的なトルクベクタリングは、左右の車輪にそれぞれ駆動トルクを分け与えることでコーナリング特性を変化させる。たとえば右コーナーを旋回中、ドライバーがもっと曲がりたいと判断したのならば、左側のタイヤに強く駆動トルクを与えることで、旋回特性を高めるのもの。
だがマツダの「Gベクタリングコントロール」はそれとは異なる。コーナリング初期に、エンジン出力を絞る。それによって、荷重がフロントに移行。荷重の高まったフロントタイヤはグリップ力が上がり、結果として旋回しやすくなるという具合である。
さらには、「アクティブエアシャッター」なるシステムも備わる。マツダ3のフロントラジエター付近に可変式のルーバーが設置されている。それはコンピューター制御で開閉する。開いている状態では、走行風がラジエターに導かれ、冷却水を冷やす。閉じれば走行風を遮断し、エンジン温度を高める。走行風を利用して、緻密にエンジン温度を管理する機能なのだ。
複雑な制御で旋回特性をコントロール
2020年モデルで驚かされるのは、そのエンジンパワーを制御する「Gベクタリングコントロール」と、走行風をコントロールする「アクティブエアシャッター」を協調制御したことである。
「アクティブエアシャッター」が開くと、走行風がラジエターに当たり冷却水の温度を下げるという効果を生むものの、その風はラジエターを通過し、車体のフロント下部に潜り込む。ボディフロントを上に持ち上げようという力が発生する。ボディがリフトするのだ。これがハンドリングを悪化させる。フロントタイヤへの荷重が不足し、曲がり辛くなってしまうのである。
これまではそれは野放しにされてきた。だが2020年モデルは、そのリフトのタイミングを見計らって「Gベクタリングコントロール」が制御する。より一層、「Gベクタリングコントロール」の効果を高めるというのである。
逆に「アクティブエアシャッター」が閉じれば、フロントのリフトが減り、フロントタイヤへの荷重が増す。そのタイミングでは「Gベクタリングコントロール」が制御を抑え、旋回しすぎる挙動を整えるのである。
というように、極めて複雑な制御をすることで、旋回特性をコントールするのである。
一見するところ穏やかなキャラクターのマツダ3ではあるが、見えないところで先進技術が盛り込まれているのだ。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。