クルマ三昧

富士24時間レースにトヨタが水素燃料車で参戦 豊田社長自らアピールの場に

木下隆之

 時代はカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)に向かって突き進んでいる。それに向けて自動車ができることは、可能な限り二酸化炭素の排出量を減らすことである。そのための有力な施策が電気自動車(EV)であることは明らかだ。貯めた電力で電気モーターを稼働させ、駆動輪を回転させる。走行中には一切の排気ガスを排出しない。理想的な動力源として有力視されているのだ。

 だだ、原発や再生可能エネルギー稼働率の低い国、とりわけ日本のようないまだにエネルギー源を化石燃料に頼る国では、EVをカーボンニュートラルの救世主とするのには無理がある。走行中に二酸化炭素を排出させないためのEVだが、バッテリーに蓄えるその電力のもとを辿れば、そこでは化石燃料が燃やされている。煙突からは二酸化炭素がもうもうと立ち上っているのだ。無条件でEVを信仰するのは危険をはらむ。

 そのための施策の1つとして、水素燃料車の普及が期待されている。水素燃料とてそのエネルギーを生成するにはまだ化石燃料に頼らざるを得ないのが現状だが、水素生成のために太陽光発電が進められている。再生エネルギーによる水素供給がもっと進めば、次世代の自動車エネルギーの主役に躍り出る可能性もないではないのである。

 ここで言えるのは、自動車の動力源は、EVだけではないということ。電気モーターも動力源として可能性が高いが、水素を燃料とした電気モーターモデルも有力であろうし、内燃機関の可能性もまだ残されている。多くの技術を有する日本では、さまざまなエネルギーの活用を進める必要があるということを、今回のトヨタの水素燃料によるレース参戦が物語っているようにも思える。

 そう、トヨタ自動車は今年5月21日から開催される「スーパー耐久シリーズ2021 富士SUPER TEC 24時間レース」に、水素を燃料としたレーシングマシンで参戦すると発表したのだ。トヨタ自動車の豊田章男代表取締役社長率いるルーキーレーシングチームからの参戦であり、豊田社長自らステアリングを握るという。

 電気モーターのない水素燃料自動車

 マシンは「カローラ」をベースとした競技車両。トヨタは水素燃料車の「ミライ」を発売しているが、ミライは純粋な水素燃料車であり、充填した水素と大気中の酸素を化学反応させた発電、電気モーターで駆動するタイプだ。それに対して今回参戦する水素マシンは、これまでの内燃機関に注いでいたガソリンをそっくり水素に変えて燃焼させるシステムである。だから内燃機関を搭載していながら、電気モーターのない水素燃料自動車なのである。走行中には二酸化炭素をほぼ100%排出しない。また新たな動力源の可能性を示そうとしているのだ。

 もっともミライの技術が余すことなく活用されていることは明らかだ。24時間を通じて戦うことになる耐久レースであることから、途中に度重なる給油が必要となる。その際の水素充填システムもミライからの応用であろうし、搭載する水素タンクもミライのものだという。

 実はこのレースには僕もライバルマシンで参戦するのだが、すでに行われたトヨタの公式テストではその走りの確かさをコース上で確認している。ガソリンエンジン搭載マシンと遜色ない走りを披露していた。

 懸案である安全性の問題もクリアになりつつある。レースである以上、クラッシュの可能性も無視できないが、たとえばマシンが粉々になるような強い衝撃を受けても水素タンクは破裂しないという。安全性は確認できているのだ。そうでなければ、地位も名誉もある豊田社長が自らステアリングを握ることなど考えられない。

 ともあれ、5月末に開催される富士24時間耐久レースに注目が集まる。新たな動力源としてのアピールの場になりそうだ。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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