「BMW Mモータースポーツ・ディーラー」が日本に発足するというニュースが飛び込んできた。BMWの「M」。ご存知の方も多いに違いない。MシリーズはBMWをベースに高い走行性能を盛り込んだスペシャルモデル。近々では最新の「M3」や「M4」が日本上陸を果たし、このコラムでもたびたび紹介している。その「M」を名乗る本格的レーシングマシンの販売を、モトーレン東都(TotoBMW)が担当。日本で唯一の取り扱いディーラーとなったのである。
レーシングマシンの敷居を下げる
一般的にレース専用マシンは、レース専門の会社からしか購入できない。ゆえに購入には専門の知識が必要であり、コネクションも欠かせない。維持管理も知見が求められる。それがモータースポーツ参画を希望する多くのチームやドライバーの障害になっていた。敷居が高かったのである。
だが、モトーレン東都がBMW ジャパンから正式認定され、販売を手掛けることで、たとえばBMW320iやX4を買うような気軽さでレーシングマシンの購入が可能になった。やや大袈裟にいえば、日曜日に販売店に赴き、商談を進めることができるというわけだ。
今回モトーレン東都が正規のBMW Mモータースポーツ・ディーラーになったことで、同社の小川秀一氏が専任のスポーツディレクターになった。スーパーバイザーには「BMW Team Studie」の鈴木康昭氏が就任。これまで13年間、スーパーGTやプランパンアジアで戦い、先日はスーパー耐久レースに「M2CSレーシング」を投入してきた実績がある。レーシングマシンの購入に迷いも不安もない体制が敷かれた。
「M2CSレーシング」を販売
オンラインでの発表会では、BMW ジャパン代表取締役社長のクリスチャン・ヴィードマン氏の喜びのメッセージが届き、ドイツ本国のBMW・M副社長トーマス・フェルバーマイヤー氏のサポートが確約された。日本には「M」担当のレナート・ニグマン氏が常駐することになる。それに応える形でモトーレン東都代表取締役社長・湯本拓治氏の意気込みを語った。
当面販売するのは「M2CSレーシング」だろう。オリジナルのM2をベースに戦闘力を高めた限定モデル「CS」を素材に、レース参戦のためのモディファイを施したのがそれだ。もちろんロールケージやレース用バケットシートなどが組み込まれており、そのままレースに参戦可能だ。
レーシングマシンとしてのコンセプトは、カスタマー仕様であり、モータースポーツエントリー車両として最適だ。モータースポーツで不安になるランニングコストも抑えられており、充実したサービス体制も敷かれる。レース参戦を希望するドライバーだでなく、休日にサーキットドライブを楽しむビギナーにも好まれるだろう。
実は僕はこのマシンで先日の「スーパー耐久第3戦富士SUPER TEC24時間レース」に参戦した。総合12位となり、表彰台に立っている。通関を終えたばかりの“つるし”のマシンだったにもかかわらずノートラブル。ドイツ本国のBMW・M社とBMW・モータースポーツが共同開発した純粋なレーシングマシンであり、性能も耐久性も担保されているのも魅力である。しかも、改造範囲の緩いGT4規定のマシンよりも速いというから驚きである。
それほど本格的なレーシングマシンであるにもかかわらず、販売店で購入できるのだ。このプロジェクトがBMWのブランド力を上げるだけでなく、日本のモータースポーツの発展に貢献するだろう。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。