クルマ三昧

新型「メルセデス・マイバッハSクラス」発表 孤高の世界から舞い降りた高級車

木下隆之

 「メルセデス・マイバッハSクラス」が発表された。その堂々たる体躯は、すでに発表されている新型メルセデスSクラスのホイールベースを180ミリ延長した。マイバッハの特等席であるリアシートの居住性を高めるためであることに疑いはない。リアのドアは電動で開閉する。ホイールベースの延長はボディ全長の延長でもあり、それがそのままリアドアの長さでもある。そのため乗り降りはしやすいが、ドアの開閉はしづらい。その点を解消するための細工なのである。タクシーですら自動開閉するものの、それと同質ではもちろんない。優雅に開き、しっとりと閉じる。

新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)
新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)
新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)
新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)
新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)
新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)
新型「メルセデス・マイバッハSクラス」(メルセデス・ベンツ提供)

 メルセデスSクラスとの格の違い

 ホテルオークラ東京で開催された発表会の席で、ステージでスポットライトを浴びる現車に触れ、座ってみただけだが、メルセデスSよりも格段に豪華なのは想像の通りだ。

 リアシートは、エアラインのビジネスシート並みの空間が確保されている。前席を前にスライドさせれば、十分に足を伸ばしてくつろげるほどの空間が広がる。そもそも助手席に乗員が座っていないことを確認すると、シートは自動で前端までスライドするという念の入れようだ。後席で寛ぐ御仁のためのクルマであることはその点からも理解できる。

 用意されているエンジンは2タイプ。V型8気筒4リッターツインターボに加え、V型12気筒6リッターツインターボがラインナップ。エンジン排気量を下げるというダウンサイジングの風潮は高級車にも訪れているのだが、マイバッハSは内燃機関の頂点であるV型12気筒が用意されている。そのあたりにメルセデスSクラスとの格の違いを見せつけているかのようだ。

 価格は3200万円以上。数々の豪華オプションを加えれば3500万円は超えるに違いない。もっともマイバッハSは、孤高の存在からやや庶民的な世界に舞い降りてきた感があるのも事実だ。歴史的に見れば、マイバッハはごく一部の欧州貴族のための高級セダンという位置付けであり、自らステアリングを握るクルマというより、後席で移動するというショーファードリブン(専門のドライバーが運転する)的な性格が強い。

 1966年にはダイムラーベンツの傘下となり多くのパーツを共有することになったものの、ボディや内装はまったくの別物として開発され、孤高の存在として威光を放っていた。先代の価格は6000万円オーバーである。

 メルセデスとの共有化がいっそう色濃く

 だが、そんなマイバッハもパーソナル化に方針を変えつつある。独立していたマイバッハブランドが、いつしか「メルセデス・マイバッハ」とダブルネームになった。より一層メルセデスとの共有化が進む。

 ボディはSクラスの共通であり(ホイールベースは延長されている)、内外のデザインやサスペンションの作り込みなども共通である。グリルやホイールなどの意匠にはマイバッハ独自の個性を盛り込んでいるものの、それはメルセデスSクラスと見紛うほどに酷似している。メルセデスのもっともスポーティなブランドが「メルセデス・AMG」なら、もっとも高級なモデルが「メルセデス・マイバッハ」という位置づけだ。

 マイバッハのパーソナル化を悲しむ声も少なくない。明らかな威圧感が伝統だったマイバッハを知る人には、庶民性が気になるに違いない。それも、販売数を確保するためのマーケティング戦略であることはあきらかだ。ごく一部の貴族のためのショーファードリブンとして独自の道を進むには、開発のための負担が大き過ぎるのだ。メルセデスとの共有化を色濃く進めることでブランドを存続させる手法が賢明なのかもしれない。

 これからはメルセデス・マイバッハを街で見掛ける機会が増えそうである。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】こちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。