レクサスNXがフルモデルチェンジを遂げ、新型となった姿を現した。ただ、残念ながら発売は年末と予想する。世界的な半導体不足とコロナ禍による部品供給の遅れが響いた形だ。したがって今回は試乗する機会が得られず、技術資料を読み、現車を確認してのリポートである。ともあれ、試乗せずともこのクルマが驚くほどの走りのレベルにいることは実際にステアリングを握らずとも想像できる。そう確信するほどの技術的なポイントが散見されたのである。
開口部の剛性を強化
その1つがボンネットのフックである。一般的なボンネットの場合、フロントガラスの下部あたりにヒンジがあり、それを支点に前方に向かって開く。レクサスNXの場合、コスト増を覚悟の上でボンネットを高剛性のダンパーで支える。閉じるときにはフックが噛み合い、不意に開くことを阻止する。そのフック(専門的にはオーグジュアリキャッチフックと呼ぶ)が、国産では一般的な1カ所ではなく、左右の2カ所で噛み合うのである。ここがポイントとなる。
日頃は目にすることがない目立たぬフックであり、話題に上がることも少ないのだが、このフックが2カ所であることがクルマのボディ剛性を飛躍的に高めるのだ。
実はクルマにとって広く口を開けた開口部は、ボディ剛性を下げる一因になっている。リアのハッチバックや左右のドアは“弱い”とされており、走行中にユラユラと捻れる。それが走りを悪化させる。ボンネットも大きく口を開けた開口部であり、“弱い”。それを解消するためにボンネットを重要な剛性部材と考え、2カ所のフックで強固に結合させているのである。実はこれは、ボディ剛性で定評のあるドイツ車では常識的な手法であり、その設計をレクサスが国産車として初めて採用したのである。
同時に空力性能にも貢献する。2カ所で締め込むことでボンネットのバタツキを減らす役割がある。ボンネットの上面を流れる空気をスムースに整えることで、燃費に貢献する空気抵抗を減らすと同時にボディ全体のダウンフォース、つまりクルマを路面に押し付ける力を発生させる。その結果、走行中のクルマが安定するのである。
ドイツ車並みのボディ剛性
レクサスNXが採用したホイールナットも、実は専門的には興味深い。一般的にホイールは、サスペンション側から伸びたボルトにはめ込み、外側からナットをねじ込むことで締結させる。だが新型レクサスNXが採用したのは、サスペンション側にはネジが切られた穴があるだけで、ボルトは伸びていない。ホイールの穴にホイールを当てがい、外からボルトで締め込むスタイルに改められたのだ。
これが実は剛性に効果がある。一般的なボルトナット方式では、強い力で締めたとしてもホイールとサスペンションとの締結が弱く、ミクロな目で見ればズレが生じる。それをボルト方式で改善されるというのだ。コーナリング中の横剛性が飛躍的に高まるため、ハンドリングが素直になる。狙った通りの走行ラインをトレースしやすくなる。
これもボンネットのフックと同様、ボディ剛性に定評のあるドイツ車では常識であり、日本車での採用は新型「レクサスIS」の他では珍しい。そう、レクサスは走りのレベルを引き上げるにはボディ剛性の引き上げが欠かせないと気付き、細部にわたって細工を施しているのである。
オーグジュアリキャッチフック然り、ホイールのボルト然り、日常で目にすることが少ない部分であるにもかかわらず手を加えている。試乗せずして走りのレベルを期待してしまったのはそれが理由なのである。
「ドイツ車のボディは優れているよね」
これまで常套句とされてきたこの言葉を覆すことができる、初めての日本車なのかもしれない。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。