トヨタ自動車の組織は大きく7つに分けられている。その中の一つである「ミッドサイズ ビークルカンパニー」に、新しく「SUV事業性」という組織が発足した。量産を目的とした営利会社としての経営を超えた、新たな取り組みに期待が高まる。
隙の無いSUVラインナップ
SUV事業性の取り組みを平たく言えば、「自動車にまつわる文化の創造」ということになるのだろうか。自動車を開発、生産し、販売する。この営利企業としての体質から一歩駒を進め、販売後のユーザーの生活を創造するというのだ。
トヨタのSUVラインナップは、完璧にピラミッドで構成されており、隙間なく魅力的なモデルが揃う。ボディサイズをコンパクトな順番に並べるとこうなる。
ライズ
ヤリス クロス
C-HR
カローラ クロス
RAV4
ハリアー
ランドクルーザープラド
ランドクルーザー
ハイラックス
パワーユニットの排気量や出力も段階が上がるに従って強化され、ユーザーがそれぞれの好みに対応するモデル構成が完成しているのだ。さらにそれぞれに派生車種が企画されており、多様化するユーザーの趣味趣向に応える。
例えばRAV4を題材に紹介するならば、ベーシックな「RAV4」とは別に、アウトドア色の強い「RAV4アドベンチャー」があり、一方で環境性能と高出力を盛り込んだ「RAV4プラグインハイブリット(PHV)」が揃う。さらにクロスカントリー色の色濃い「RAV4アドベンチャーオフロードパッケージ」をラインナップするという周到さだ。そこにはほとんど隙がないように思う。実際にトヨタの企画生産力と販売力はライバルを凌いでいる。世界トップの自動車メーカーである所以であろう。堅牢な城壁のような車種構成だ。
「愛される自動車メーカー」へ
だがトヨタが新たに始めた「SUV事業性」は、これまでの販売から乗り換えまでの流れをさらに広げる。
ユーザーの立場になるとわかりやすい。「購入者→クルマを愛車に育てる→ともに過ごす→仲間ができる→もっと好きになる→競い合う→乗り換える」というライフサイクルの中に、クルマのモディファイを楽しんだり、日々愛車として触れ合い、共通のクルマ好きが集うことで仲間が増えたり、あるいは自動車競技に参加することもあるだろう。
ともすれば無機質な移動手段であるクルマが、生活の一部になり、クルマが媒介となって生活が豊かになることも考えられる。購入から乗り換えまでのクルマのある生活を企画しようというのが「SUV事業性」なのだろう。
特にSUVは、無機質な移動手段とはやや異なる趣味性がある。だからこそ、SUV事業性には意義があるような気がした。クルマを販売するのではなく、クルマのある文化を創造する。ミッドサイズカンパニーは、愛される自動車メーカーとしての一歩を踏み出したのかもしれない。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。