レクサスがアジア初のレッドブルエアレース・パイロットの室屋義秀選手とチームパートナーシップを締結した。
共通項が多い航空技術
関係は2016年に遡る。当時レッドブルエアレース世界大会に参戦していた室屋選手は、日本人唯一のパイロット。世界転戦型であり、千葉県・浦安の海上をステージに開催された日本大会で優勝。一躍その名を世界に轟かせた。世界チャンピオンにも輝いた。
当時、レクサスが室屋選手とパーソナル契約を結んだのは、主にプロモーション活動の一環として捉えていた。高級な世界観を好むレクサスと、セレブな雰囲気で知られるエアレースは、イメージ浸透と宣伝力に親和性があり、それを理由にレクサスと室屋選手の関係が進んだ。
今回の契約は、パイロット個人への支援というこれまでの体制を超えて、室屋選手が率いるチームを支援するという形に進化した。レクサスは技術者をレースに送り、技術的支援を行うという。
エアレースは「空のF1」とも喩えられている。数台が先陣争いをするF1とは異なり、1機ずつが単独でコースに挑み、そのタイムで優劣を競う。一般的にコースは海上に設営される。ポールのようなパイロンが掲げられ、定められたコースを滑空。観客はその飛行をビーチから仰ぎ見るようにして観戦するのだ。
機体は激しく旋回する。パイロン間隔が機体の幅よりも狭い区間では、姿勢を縦にしてクリアする。上空に一気に上昇、大空の中360度旋回をし、そこから海面スレスレに急降下。機体はめまぐるしく上下左右に姿勢を変え、パイロンとの間隔わずか数メールでかすめる。
時速300キロに達し、急旋回や急降下では最大10Gという人体にとって限界のストレスが加わる。驚くほどの動体視力、強靭な肉体、瞬間的な判断力、それでいて冷静な思考。F1パイロットと同等の能力が不可欠だ。時速300キロという速度域では空力性能が勝敗を分ける。エアレースは文字通り、空気の力を利用して旋回し、滑空し、飛翔する。
カーボンニュートラル社会への道筋の一つ
空では機体の軽量化が不可欠で、運動性能を高めるためには軽い方が有利。高回転で唸るエンジンは冷却性能も求められる。つまりレクサスの技術と航空技術には共通項が多い。戦いのステージが地上か空かという違いがあるだけで、クルマとエアレースに求められる能力に違いはないのである。そこがレクサスと室屋選手がチーム契約を締結した理由なのだ。
実際にレクサスは、室屋選手から空力的なデータを得てクルマの開発に役立てている。一方の室屋選手も、クルマの知見を利用して新たな「技」を開発する。
レクサス機の操縦桿には、レクサスが人間工学的な知見により開発した「操縦桿グリップ」が装着されており、より正確で素早い操作を後押ししている。空力的解析による新技「新ターン」を完成させたのはそれがあったからだ。というように、陸上のクルマと空のエアレースは技術的に親和性が高い。
これらは、世界的な風潮であるカーボンニュートラル社会の実現への道筋の一つでもある。エアレースばかりではなく、次世代モビリティに繋がる人材育成にも取り組むという。地上のモータースポーツを制したレクサスが、次なるプロジェクトとして空に目を向けたことが興味深い。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。