総務省が2月に発表した労働力調査によると、役員以外の雇用者のうちアルバイトなどの非正規労働者の割合は35・2%で、3年連続で過去最高を更新した。松田さんらは年々重要性を増している非正規労働者としての視点を生かして現代社会のひずみを描く。ただ今日的な問題は雇用形態にとどまらない。デビュー作ながら4刷2万8千部を発行している、新庄耕さん(29)のすばる文学賞受賞作『狭小邸宅』(集英社)は、過酷なノルマに追われる不動産会社の社員が主人公。上司の罵声が響き、退職勧告は日常茶飯事…。職場のリアルな描写は、新卒学生の就職難を背景に社会問題化した「ブラック企業」を思い起こさせる。
「仕事選びでやりがいや自分らしさが重視される以上、職業と個人の人格は切り離せない。職業小説の隆盛は『自分探しの場』として職場が機能している現れ」と指摘するのは文芸評論家の伊藤氏貴(うじたか)さん(44)だ。朝井リョウさん(24)の直木賞受賞作『何者』(新潮社)で描かれた学生の就職活動が題材として切実さを持つのもそのためだ、とみる。「現在は契約社員や派遣社員など働き方も多種多様。葛藤や悩みの幅が広がる分、小説もバラエティーに富んでいくはず」