IT企業を舞台に、冷徹な上司とひそかにSMに興じる女性システムエンジニアが主人公の『欲ばりな首すじ』(かのこ著)にもコンセプトは浸透している。仕事熱心な等身大の女性が内に秘める強さと弱さをすくい上げ、同性の共感を誘う。上司の容姿やしぐさも細かく描写し、理想の男性像をさりげなく打ち出す。
波多野編集長は「男性作家による官能小説に違和感を抱く女性は多い。ひたすら受け身で都合がいい存在ではなく、しっかり自立している…そんな大人の女性たちの濃密な恋愛物語を提供したい」と話す。
夢が満載の設定
“乙女系”と呼ばれるファンタジー色の濃い作風を押し出すのがシフォン文庫(集英社)だ。西洋やアラブなどの王朝を模した舞台設定で、貴族や王族同士の恋愛もつづる。「設定に現実感がない方が、ピュアな恋愛に浸れて、嫌なことも忘れられる。格好いい男性、華やかな舞台、おいしい料理…。男性が書く官能小説とは違い、女性の夢が満載です」と編集部の堀井さや夏さん。読者層は20~30代を中心に50代まで幅広い。作品もすでに30点を超え、「どれも安定した売れ行き」という。
今年2月にはイースト・プレスがソーニャ文庫を発売。11月にはリブレ出版の乙蜜ミルキィ文庫も発売される予定で、官能レーベルの創刊は相次いでいる。芸術評論誌『ユリイカ』(青土社)が7月号で〈女子とエロ・小説篇〉と題した特集を組むなど、ブームを論じる動きも目立つ。