「なるべく格好いいものを古びないように書きたいなと。再開発の遅れた街の様子とか、今読んだ方がヒリヒリくるのかも」。読み巧者をうならせたその先見性は、一方で枷(かせ)のようになって作家を苦しめた。デビュー作『ノーライフキング』(昭和63年)は仮想現実社会の到来を予言した書として参照され、『ワールズ-』が出版された年には湾岸戦争が勃発。作中の描写を連想させるイスラム世界が注目された。「洗脳」という言葉がオウム事件によって大きく取り上げられるのも2作の発表後のことだ。
「書いたことが現実化して自分に襲いかかる。すごく怖い、と感じた。物語が外に流出する妄想にとらわれて、世の中との関係が切り結びにくくなったんだと思う」。『去勢訓練』(9年)以降16年、小説から遠ざかったが、「書きたい気持ちはずっとあった」と明かす。自ら「第2期」と呼ぶ現在の活動へと踏み出せたのは、東日本大震災後に「虚構の力」をあらためて考え抜いたことが大きいという。「笑っちゃうくらいの嘘をついて“別の現実”をつくり出すことで政治や社会の問題をあぶり出す。リアル(現実)への批判として虚構を差し出せるじゃん、って。それは小説の持つ力ですよね」