●さんが戯曲の翻訳や舞台演出の道に進んだのは、明らかに恆存さんの影響だ。恆存さんは、●さんが幼稚園の頃から芝居や歌舞伎を見に連れて行ってくれた。●さんは華やかな舞台に見とれ、夢中になったという。ただ、一緒に見ていた3歳上の兄は全く興味を示さなかったといい、演劇好きの恆存さんのDNAは●さんだけが受け継いだようだ。
「父に引きずられて芝居を作ることに魅せられた私は、父のエピゴーネン(模倣者)かもしれない。自分では全く意識していないのに、何をやっても気がつくと父の跡をたどっていた。これはもう、しようがない」。●さんは、自分が何を書いても恆存さん以上の文章は書けないだろうし、恆存さんの思想も超えられない。オリジナルな思想は自分の中から出てこないだろう、と感じている。
しかし、こうも考えている。「私には私の書き方があり、今の時代に生きる私だからできることもある。父の手のひらの上かもしれないが、これからも私の感性と文章で表現したいと思う」(平沢裕子)