世界のクロサワを常に傍らで支えた小泉堯史監督の「明日への遺言」は、死刑を覚悟して戦争裁判に臨む旧日本陸軍中将の至誠を貫く潔い姿が描かれる。裁判を傍聴する家族が映し出されたとたん、軍人としても家庭人としても清く正しく生きた中将の半生、高邁(こうまい)な志を分かち合いながら固い絆で結ばれた家族のありようが、内面に秘めた誠実さがにじみ出す清楚(せいそ)な装いに刻印されている。
討ち入りを果たした大石内蔵助に遺児がいるとした「最後の忠臣蔵」(杉田成道監督)では、あどけなさが残る武士の娘から放たれる気高い心を着物の華やかな彩りで伝え、山田洋次監督の時代劇3部作を締めくくる「武士の一分(いちぶん)」は、質素倹約を徳とする武士の心得を抑制された色調の端正な衣装で体現し、夫人が身にまとった模様に品格と遊び心を兼備させて夫婦の情愛がつづられる。
「60年以上も前の生地を見つけるのは困難を極めます。今は江戸時代をこの目にした人など、いるはずがありません。どのような境遇の人が、どんな生活を送っていたのか一つ一つ事実を丹念に踏まえ、想像を膨らませていくしかありません」
思い描く色や風合いを定めると、それを現実のものとするために何度も染め直し、幾度も洗濯をして水になじませる。実際の生活感などを表そうと、もむ、するなども繰り返し、ようやくカメラの前に出すことができるという。
「それを煩わしいと感じたことはありません。父は細部にこそ真実があり、それが全体として巨大な力となると了解していました。それは、全ての人は自らが望む幸せに向かって突き進むべきだとし、自身の哲学を持って生きなければならないとした父の信条と響き合うようです」(谷口康雄)
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