自宅のある鎌倉と福島を往復する生活が続く(伴龍二撮影)【拡大】
主人公のモデルは、南相馬市で出会った複数の男性だ。盆暮れ以外は故郷に帰らず、60代まで東京で出稼ぎを続けた末、津波で家をなくした人もいる。「原発ができる前は出稼ぎで家計を支える人が多かった、という話は高齢の方からよく聞いた。震災や原発事故の報道はたくさんあったけれど、震災前にどんな場所だったのか、あまり語られていません」
高度成長期、家族を養うため出稼ぎに行く男たちが最初に降り立ったのが上野駅だった。隣接する上野公園は、大正12年の関東大震災では被災者があふれ、昭和20年3月の東京大空襲では8千体近い犠牲者の遺体が運び込まれた。「時は歴史年表みたいに流れるのではなく、地層みたいに積み重なっていて、自分はそこに立っているという感覚が年々強くなっている。上野はこの数十年を振り返る上で重要な場所だと思います」
主人公の男は、息子と妻を突然死で亡くし、再び上野に戻る。そこで死を迎えた男は魂となって上野公園をさまよい、自らの人生を振り返って思う。「運がなかった」と-。それは特別に不幸な人生ではなく、日本の繁栄の陰に、確実に存在する物語なのだろう。