自宅のある鎌倉と福島を往復する生活が続く(伴龍二撮影)【拡大】
自身の体験や心境を題材にした私小説で注目を集めてきた柳さんだが、今回の小説は、他者との関わりのなかで生まれた。「(これまでの小説は)自分や家族が形を変えて登場してきたのだけれど、福島でいろんな方と過ごして小説の引き出しが増えた。一緒に過ごすことで、その方たちの経験が自分の中に混じるんです。それは作家として、とてもよかったと思う」
一方で、ホームレス男性との間に感じたのと同じ「隔たり」を常に意識しているという。「被災地の方々と親しくなっても、私は被災者ではない。その隔たりは大事にしながら、被災地に向き合い続けようと思います」
【プロフィル】柳美里
ゆう・みり 昭和43年横浜市生まれ。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」入団。62年に演劇ユニット「青春五月党」を立ち上げ、平成5年に『魚の祭』で岸田國士戯曲賞受賞。6年に作家デビューし、8年に『フルハウス』で泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞、9年に『家族シネマ』で芥川賞受賞。