ふだん人々が乗降していないクック駅には、プラットフォームがない。客車にはステップが用意されるが、それでも足元に不安のある乗客は下車せず、車内で過ごしていた。機関車や食料庫などバックステージには、ステップなどもちろんない。ダイブは、私ならよじ登れそうだと見込んだのか、運転席に招き入れてくれた。
クック駅は、世界最長とされる全長約480キロの直線区間上にある。「ここはナラボー平原。オーストラリアでは、“ナラボー”はアボリジニのことばで“何もない”という意味だと言われています」。
ときどきソルトブッシュがあるだけの、何もないまっすぐな線路。この赤い大地が夕陽に染まる瞬間を、運転席から一望するとき、「この仕事を選んでよかったと思う」と、ダイブは言った。
■取材協力:オーストラリア政府観光局
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。