蒸気機関車は、石炭をくべる若手の“ファイヤーマン”とベテランの運転士、ふたりひと組で運転する。この日のファイヤーマンは、30歳になったばかりのティロ。運転士になるには、ファイヤーマンとして見習い期間を過ごし、研鑽を積まなければならないそうだ。「いまから蒸気機関車を動かして、客車と連結しますが、このまま乗って行きますか?」。ティロのことばに一も二もなく飛びついた。客を乗せていないこの区間は、トレーニングを兼ねてティロも機関車の運転に携わる。
がたんと大きく揺れ、身体が大きく揺れた拍子に、どこかに触れてしまったのか、はいていたデニムに大きな黒いシミができた。かまわない。こんなのは運転席に乗車した勲章だ。けれども「女性が服を汚して、そのままにしているなんて…」。フランクは大きなため息をつき、またもや困った顔をした。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。