寒いこともあり、圧倒的に売れていたのは種類豊富なカップ麺。なぜなら売店に行けば、お湯が無料でもらえるから。マイ水筒に茶葉を入れ、お湯を汲んでくる風景がいかにも中国らしい。水筒を持ち歩くのは、なかなかいいアイデアではないか。ひっきりなしに売店へ行き来する乗客で通路はごった返し、車内にはカップ麺特有の脂としょう油の混ざったような匂いが立ち込めた。せっかく確保した座席を手放して、食堂車をのぞいてみた。
売店脇のスペースでは、座席にあぶれた乗客が立ち、スマホをいじったり車窓を眺めたり。外国人観光客の姿も見える。売店のおじさんと目が合うと、身ぶりで「水筒はないのか」と聞いてくれる。水筒はないけれど、ビールでも飲んじゃおうかな。窓の外は青空に粉雪。レンジで加熱していたポップコーンがぱちぱちと弾け、バターの溶けるいい香りが漂った。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら