往々にして、客はクレーム対象を限定して腹を立てているのではない。それまでのサービスへの不満の蓄積の結果であることも多い。それも現在受けている企業のサービスそのものだけでなく、他社のサービスへのフラストレーションが「今に集中」することもある。
あるいは仕事や家庭での問題が遠因で「今に集中」してもおかしくない。クレームされる側にとってはいい迷惑である。
ご本人にとっては申し訳ないが、機内の男性にも、「なにか嫌なことが溜まっていたのかなあ」とぼくも思ってしまった。よって通りすがりの乗務員は全てを受け止めるフリをしないと、ことは済まない。
そういう意味ではフラストレーションの転嫁を巧妙にまわす仕組みがサービスなのではないか、とさえ思えてくる。世界の空を飛びまわる飛行機のなかは、地上の鬱憤を昇華(消化)するスペースだとすると乗務員のストレスはいかほどのものだろう。
着陸後に空港を歩いている乗務員たちの姿を眺めながら、ぼくはユニフォームに包まれた「ストレスの塊」が透けてみえるような気がした。(安西洋之)
【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)
上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)とフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。