【IT風土記】富山発 「クローン文化財」で伝統工芸を活性化 東京芸大と高岡市、国宝を復元 (1/3ページ)

 東京芸術大学は、三次元(3D)計測など最先端の技術を活用して、文化財の精巧な複製を製作する「クローン文化財」に取り組んでいる。昨年、富山県高岡市の伝統工芸・高岡銅器の職人たちと連携し、奈良・法隆寺の国宝・釈迦三尊像の再現に成功した。最先端のデジタル技術と伝統工芸の融合によって生まれた新しい形の文化財だ。

復元された国宝法隆寺金堂釈迦三尊像と東京藝術大学の宮廻教授。左手は原型

復元された国宝法隆寺金堂釈迦三尊像と東京藝術大学の宮廻教授。左手は原型

 400年の歴史持つ高岡銅器

 富山県の北西部に位置する高岡市は、加賀藩主・前田利長が築いた城下町だ。富山市に次ぐ富山県第2の都市で、町の繁栄のために利長が7人の鋳造師を呼び寄せたことをきっかけに銅器を中心とした鋳造産業が発展した。茶器や香炉といった小物から梵鐘(ぼんしょう)や大型のブロンズ像まで幅広い銅器の鋳造を手掛け、全国の銅器販売額の90%以上を占めているという。

 「高岡の銅器鋳造は世界一。鋳物を手掛ける東京芸大の先生たちも高岡に依頼しており、技術的にも、感覚的にも、素材の面でもトップクラスにある。協力してもらうには高岡市しかないと思っていた」。こう語るのは、「クローン文化財」の製作に取り組む、東京芸術大学大学院の宮廻(みやさこ)正明教授(同大社会連携センター長)だ。

 宮廻教授は、これまでタリバンによって破壊されたバーミヤン東大仏の壁画や火災で焼失した法隆寺金堂の壁画をはじめ約20点のクローン文化財を手掛けてきた。劣化や破壊、災害などによって失われつつある文化財や美術品を最先端の技術を活用して精巧に復元。多くの人々に鑑賞してもらうことで、文化財や美術品の価値や、内包する世界観を多くの人々に共有してもらうことを目指している。

 その取り組みが評価を受け、2014年に文化庁や法隆寺の許可を受け、法隆寺金堂にある釈迦三尊像の「クローン文化財」を製作する許可を受けた。プロジェクトを進めるに当たって400年を超す歴史を持つ高岡市の銅器鋳造と600年の歴史を持つ富山県南砺市の井波彫刻の技術に着目。高岡市や南砺市に協力を依頼し、それぞれの職人たちが釈迦三尊像のクローン文化財を製作するプロジェクトに参加することになった。

大光背の鋳造作業の様子(400年を超える高岡市の鋳物技術と600年を超える南砺市の彫刻技術を活用した地場産業活性化モデルの構築・展開事業推進協議会提供)

大光背の鋳造作業の様子(400年を超える高岡市の鋳物技術と600年を超える南砺市の彫刻技術を活用した地場産業活性化モデルの構築・展開事業推進協議会提供)

デジタルと伝統工芸の融合