大手シンクタンクのエコノミストは「人材が不足しているのに、一方で株主から配当を増やせという圧力が高まり、株主への分配比率が上昇しているからです。日本の株主分配比率はドイツやアメリカに比べても低いので、経営者はそちらを優先し、賃金を上げづらくなっています」と指摘する。
▼「同一労働同一賃金」で年功的賃金から脱却するのか
賃金が上がらない3番目の理由は非正規社員の増大だ。
日本企業はこれまで賃金が高い正社員に代わって賃金が低いパート・アルバイトなどを使ってきた。最近は現役時代の半分以下の賃金で雇われている定年後の再雇用者も増え、全労働者に占める非正社員比率は4割弱に達している。その結果、平均賃金を押し下げている。
だが、今後は「同一労働同一賃金」の法制化によって非正社員の賃金は徐々に上がっていくことになるだろう。そうなると平均賃金も上昇に転じ、企業が負担する総人件費が増えることになる。
この時、経営者がどのような判断を下すのかによって大きく違ってくるだろう。年功的賃金から脱却して成果や職務重視の給与体系にすれば、若くして高い報酬をもらう社員も発生するが、人件費が変わらなければ給与が下がる社員も発生する。
以上のような「3つの理由」を踏まえると、これから日本人の給与が劇的に上がることは、残念ながら想像ができないのが現状である。
(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)(PRESIDENT Online)