【著者は語る】ジャーナリスト・野嶋剛氏「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」


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 ■人間を通して台湾を描く

 どうして台湾のことを書き続けるのですか、という質問をよく読者や知人から問われます。それも当然でしょう。2011年の「ふたつの故宮博物院」を皮切りに、蒋介石、台湾政治、絵画、映画、自転車と、いろいろなテーマで台湾の本を出し続けてきました。6月に上梓(じょうし)した「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」も、台湾ど真ん中の本です。ただ、初めてなのは、「人」を主軸に置いたところです。

 これらの著作は2007年から3年間、朝日新聞台北特派員だった時期に、「いつか本にしたい」と心に留めたテーマでした。記者が新聞紙面で残せる文字数は、せいぜい数千字。しかし、私はもっと掘り下げて、もっと書きたかったのです。2年前にフリーになるまでの朝日新聞在職中は、本業のかたわら、休みの日は台湾に飛んで取材や資料収集を続けました。

 この「タイワニーズ」も、2009年の「一青姉妹と顔家」という新聞連載がきっかけでした。作家の一青妙、歌手の一青窈の姉妹は、台湾の5大財閥・顔家の末裔(まつえい)です。「人間を通して台湾を描く」というアイデアはこの時に生まれました。本書の完成で、台湾駐在時代にため込んだテーマはすべて書籍化できたのでほっとしています。

 この本では、リチャード・クー氏、東山彰良氏、ジュディ・オング氏ら11人を取り上げています。それぞれ個性派で、魅力的な人たちです。断片的に語られてきたタイワニーズの物語を一つの大きな絵に集約することが本書の狙いです。

 取材もかなり苦労しました。何しろ、人間にとって最もプライベートなアイデンティティーや国家観、家族の話を根掘り葉掘り、聞かれるのです。登場人物の一人、蓮舫氏の場合は、取材時期が例の二重国籍の問題にぶつかり、インタビューが消えかけました。それでも、最終的に誰からも胸襟を開いて語ってもらえたのは、彼らが、「個」として勇気や主張を持った強い人々だったからでしょう。

 タイワニーズは、台湾出身者や日台ハーフの人々を指すものです。彼らは故郷や国籍を失いながら異国(日本)で生き抜いて、日本人の尊敬や評価を勝ち取りました。外交関係がない日本と台湾が近しい関係でいられるのは、彼らの存在があってこそ、というのが私の視点です。(1620円、小学館)

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【プロフィル】野嶋剛

 のじま・つよし 1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。朝日新聞入社後、シンガポール支局長、政治部、台北支局長、AERA編集部などを経て、2016年4月からフリー。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に活発な執筆活動を行う。著書に「イラク戦争従記」「ふたつの故宮博物院」「ラストバタリオン 蒋介石と日本軍人たち」「台湾とは何か」-など。最新刊に「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」。