午前4時過ぎ、赤く染まった空に稜線(りょうせん)が浮かび上がる。シルエットの富士山が街明かりに輝く静岡市の中心街を見守っている。
世界文化遺産登録から5年。富士山は昨夏、登録後2番目に多い約28万人が登った。その人気ゆえ、絶景が望めるスポットは広く紹介されているが、都市の風景として撮影できる場所は多くない。
富士山をテーマにした写真コンテストで審査委員を務める写真家の宮井英武氏(80)も「応募作品は茶畑や紅葉など、四季の風景と組み合わせた写真が多い。都市と撮影できる場所は貴重」と語る。
そこで今回は、「富嶽三十六景」を描いた浮世絵師、葛飾北斎も見ることができなかった、現代ならではの風景を撮影しようと、同市西部の山にある「朝鮮岩」と呼ばれる展望スポットを目指した。
ハイキングコースを登ること1時間あまり。突然、視界が開け、眼下には約70万人が暮らす県都の街並みが広がっていた。
林立するビルや住宅。その合間を走る東海道新幹線や国道1号など日本の東西を結ぶ大動脈もしっかりと見える絶好の場所だ。