ミラノにあるコンテンポラリーアートの美術館に高校生の息子と出かけた。展示スペースによって写真撮影が許可されているところ、禁止されているところに分かれる。それぞれの部屋では1-2人のスタッフが監視している。
写真撮影が可能なある部屋に入った時、一眼レフカメラを手にもった息子に向かい、スタッフの1人が次のように注意した。もう1人のスタッフも頷いているから、申し合わせていたのかもしれない。
「ここで撮影しても良いが、作品をよく観賞したうえで撮影するかどうか決めて欲しい」
いやに押しつけがましい。でもそう言いたくなる気持ちが分からないでもない。まるでレストランの食卓で食べるよりも撮影に夢中になるように、ろくに作品を見ずにスマホで撮り続ける人を沢山見ていると、「ちゃんと見てくれ!」と大きな声で叫びたくもなるだろう。
作品を観賞した後、息子がこのスタッフと雑談したら、スタッフは「もうスマホが悪いのだ!あのカメラ機能のおかげで美術作品の観賞の習慣がめちゃくちゃだ」と憤懣やるかたない様子だ。
このセリフを聞きながら、他のエピソードを思い出した。
デザイナーの友人がロンドンからミラノの空港に降り立った。彼女は黒づくめのファッションに黒い靴を履いていて、唯一ソックスだけがピンクだった。英国好きの彼女らしい。
が、税関を通り過ぎる時、「そのファッションの色の組み合わせはおかしい」と女性職員に言われたのである。
友人はイタリア人のファッションセンスが保守的な点に、心底嫌気がさしたらしい。インバウンド政策からすると、足を引っ張る行為だ。