ゴンドラ部分が秘密の引き出しになった木製の観覧車。しかし、普通に引いただけでは引き出しを開けられない。簡略化された箱根のジオラマを飾った引き出しも同様。これらは「からくりパズルアイデアコンテスト」の入賞作品の一部だ。箱根で伝統的に作られてきた「秘密箱」同様、特別な操作をすることで、パズルのような構造の引き出しが開く仕組みになっている。コンテストは、小田原・箱根「からくりパズル」を広める会の主催で2009年に始まり、今年で10回を数える。
江戸時代末期に箱根が観光地化した際、地元の素材で土産物を作る取り組みの中から生まれたのが、寄せ木細工や秘密箱だった。素材の組み合わせの妙が美しさを生み出す寄せ木細工に対して、秘密箱にはそれぞれ個別の仕掛けがある。側面を正しい順番に何度かスライドさせて、やっとふたが開くなど、仕掛けそのものが楽しい。腕のいい木工職人がそろう小田原・箱根は、高度なからくり箱が次々と生み、世界のパズル愛好家を魅了している。「小田原・箱根でなければ、これだけのものを作れない」とコンテスト開催に関わった市民は胸を張る。
1999年には、組み木や秘密箱をはじめとしたからくり職人によるからくり創作研究会が発足。互いの技術とアイデアを持ち寄ると、一人で製作するときよりも作品の幅が広がった。そこで、一般の人にも「アイデアを考える」という形でからくりパズルにかかわってもらおうと始まったのが、このコンテストである。
毎年1月から3月にかけて募集したアイデアの中から入選作を選び、職人が作品に仕上げる。夏に小田原市内の商業施設と箱根にある「関所からくり美術館」で展示し、見た人たちの投票で各作品の賞の名前が決まる。 冒頭紹介した観覧車は第10回「デザイン大賞」、ジオラマは「お気に入り大賞」に決まった作品だ。からくり創作研究会の亀井明夫会長によると、コンテストには職人ではとても思いつかないようなアイデアが寄せられるそうだ。その新鮮さが新刺激となって、職人たちの創作意欲がかき立てられ、職人たち自身がワクワクしながら新たな着想や更なる技術への工夫につなげていく。いわば「智」の循環である。
からくり箱ファンはむしろ、海外の方が多い。新たに生み出された作品たちがインターネット上に公開されるやいなや、世界中の愛好家をうならせる。その一方で、コンテストが浸透するにつれて地元の小田原・箱根で、からくり箱の新しい魅力にひきつけられていく人も少なくない。
市民と職人、海外と地元。それぞれの相乗効果が伝統工芸が新たな広がりをもたらし、未来図を描き始めている。
【サスティナブル】
1992年の第1回地球環境サミットで初めて提唱された「持続可能な発展」という考え方。以後、国や産業の発展には自然環境への配慮が不可欠であることが世界的に広く浸透している。本コラムでは、サスティナブルな社会を目指す日本各地の取り組みを紹介する。
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みやもと・ゆみこ 元FM石川アナウンサー、ラジオDJ、研修講師。音楽・スポーツ・ビジネスなど幅広いジャンルのライターとしても活動中。
【局アナnet】 2004年に創設された、全国の局アナ経験者が登録するネットワークサイト。報道記者やディレクターを兼ねたアナウンサーが多く、映像・音声コンテンツの制作サービスを行っている。自社メディア「Local Topics Japan」(http://lt-j.com/)で地方のトピックス動画を海外向けに配信中。