たとえば、朝一の授業開始直前に、こんなことを言い出す生徒がいた。「昨日お父さんにテストを見せたら、『なんでこんな問題を間違うんだ!』って言って、灰皿を投げつけられました」と。どうやら、灰皿はその生徒のすぐ傍を壁に向かって飛んでいったらしいのであるが…。
じつはこの生徒の父親、スポーツチームの監督をやっているけっこうな体育会系らしく、その生徒にとっては怖い母親でさえ、自分の意見を父親に納得させるのは難しい家庭であった。
「朝起きたらお父さんがいなくなっていた」
あるいは別の日、たしか土曜日の朝一だったと記憶しているが、こんなことを話し出した男子生徒がいた。それ以前に、「昨日、お母さんに思いっきり蹴られた」と文句を口にしたことのある生徒である。
「昨日の夜ね、お父さんとお母さんが喧嘩してね。でね、今朝起きたら、お父さんがいなくなってて…」と落ち込んでいる。どうやらお父さん、早朝、家族が寝ているうちに家を出ていってしまったらしい。〈この家は夫婦喧嘩をすると、父親のほうが出ていく家族なんだな、やはり〉などと思いつつ、と慰めるには慰めたのだが…。
じつは、この生徒の両親は大学時代の同級生同士で、家庭内では母親のほうが強い。その生徒にとって母親は怖い存在であり、その代わり父親とは仲が良く、休日に父親と二人で出掛けた話をよく聞かされていた。化石好きな生徒で、訪ねた先で見つけてきたチャートをくれたこともある。
実際のところ、親に関する文句や不満があると、普段からよく話す男子小学生は、けっこうあからさまに訴えてくる。なかには、朝一から自分の母親のことを、「あのクソババァ、なんたらかんたら」と独り言で罵っている生徒がいると思えば、「昨日お母さんと出掛けたら、一日じゅうテストの点数のことを言われ続けて…」と腐っている生徒がいたりと、小学生といえども、事程左様に、なかなかの人間模様なのである。
【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら。