体験を伝える
地震から、ちょうど2年がたった9年1月17日、小川は入籍した。人生の節目にあえて震災の日を選んだのは、多くの被災者の思いを自身の胸に刻むとともに、「ゼロから一歩一歩進んでいく日にしなければならない」と考えたからだ。
12年オフに横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)に移籍しても、被災地に寄り添う気持ちに変わりはなかった。現役を引退し、オリックスやDeNAでコーチを務めたときも、ユニホームの下に着るアンダーシャツの袖には必ず「がんばろうKOBE」の文字を縫い込んだ。
現在、小川はオリックスのジュニアチームなどで子供たちに野球を指導している。震災を知らない世代に「人に優しく」「感謝の気持ちを持とう」といった言葉とともに、自らの被災体験を伝えている。
「神戸の街が本当に好き。人のために何かしたいと強く思ったのも(震災が)初めてだったかもしれない」。恩返しの気持ちと使命感は、ずっと持ち続けている。=敬称略(嶋田知加子)
小川博文(おがわ・ひろふみ) 昭和42年3月6日生まれ、千葉県出身。内野手。拓大紅陵高からプリンスホテルを経て、平成元年にドラフト2位でオリックスに入団。平成7、8年のリーグ制覇、8年の日本一に貢献。横浜(現DeNA)に移籍後、16年に現役引退。通算成績は1720試合出場、打率2割6分6厘、100本塁打、597打点。
阪神大震災はプロ野球オリックスの「がんばろうKOBE」など、被災者とスポーツ界のきずなが生まれた災害でもある。令和2年は東京五輪・パラリンピックが開かれる五輪イヤー。あらためて震災とスポーツの関わりを振り返る。((下)は明日2月2日に掲載します)