ニュースを疑え

「その日暮らし」の発想 アフリカ路上商人に学ぶ「微妙な負い目」とは (2/3ページ)

 --どうしてそんな生き方をしているのですか

 「ひとつの背景は不確実性を前提にしているからです。未来は誰にとっても不透明ですが、彼らはそれにより自覚的です。行政はあてにならない。銀行から融資を受けるのは難しい。誰かに貸したものが返ってくる保証はない。裏切りたくなくても裏切るしかなくなる事態に人はよく陥る。確実な期待や信頼の遂行を求めあうのはお互い負担だ。そのような状況でさまざまな可能性に投資していくという生き方は、ある意味で合理的です」

 「でも不思議とモノやサービスが、持っている人から必要な人に流れていく。裏切りに満ちあふれているが、親切や贈与も同じくらい多い。タンザニア路上の社会的世界も香港の地下経済でも警察が十分に機能しない混沌(こんとん)とした状況ですが、だからといって万人の万人に対する闘争にも、相互監視型の社会にもならずに、それなりに回っているのです」

 ジェネラリストとして生きる

 --中央の権威がないのはネットの世界に近い

 「先にも言いましたが、実際にネットとの親和性は高いですよ。彼らはいまではSOSでもアイデアでもとにかく、SNSに投稿する。興味なし、応えるひまも金もないというひとたちは、スルーします。投稿する方は釣り堀のように、たまたま誰かが反応して食いつくのを待つ。何回かに1回は、1人くらいは応答するだろうと。応答はあります。だって誰にも一度も応答しなかったらフォロワーができず、自身が必要とするときに困るので、無理なくできるときにはしておくほうがいいからです」

 「国がしっかり機能して再分配する形が整っていれば、生活保護を申請したり奨学金を取ったりすればよいという発想になるかもしれません。でもタンザニアの路上商人や香港のタンザニア交易人たちはインフォーマルセクター、非公式経済部門ですから、自前でやりくりしていく仕組みをつくる必要があります」

 --日本でも不確実さが増してきた。彼らの生き方は全く関係ないとも言い切れないようですね

 「大企業でも副業が解禁される時代になり、非正規雇用のように安定的な人間関係を基盤にするのが困難な人、あるいは固定的な場所で仕事をしない生き方を選択する人も増えてきました。そうなると同質のひとたちが集まる組織内のつきあいより、異質で多様なひとたちとの人間関係のほうが重要になる場合もあるでしょう」

 「日本にはもの作りのスペシャリストが経済を支えてきたという考えがありますが、アフリカのインフォーマル経済では特定の仕事に専業化しません。それは、ある程度いろんなことができれば、何かあったときにも別の何かで生きていけると考えるからです。ひとつに絞って通用しなくなったら終わり。いろんな仕事や商売をして、ジェネラリストとして生きるひとたちが多いのです」

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