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新型コロナ禍が際立たせる「日本遺産」 その存在意義 (1/2ページ)

 その土地の歴史や風習、文化財を地域活性に活用する「日本遺産」に大阪府内から河内長野市と泉佐野市が認定されてから1年たった。観光客誘致につなげようと関係者は期待をふくらませてきたが、成果はまだ見えない。さらに予定していたPR活動が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中止されるなど逆風も吹く。文化財の活用を訴える文化庁の肝煎り事業でありながら、知名度の低さや事業評価のあいまいさも指摘される日本遺産の制度。認定を受けた自治体はブランド確立への模索を続けている。(大島直之)

 認定後の影響は…

 中世に南朝の拠点が置かれた観心寺と金剛寺を中心に発展し、街道も整備され、宿場町としても栄えた河内長野市は昨年5月、「中世に出逢えるまち」として日本遺産に登録された。ほぼ同時期に世界文化遺産の登録が決まった百舌鳥(もず)・古市古墳群を抱える堺市などとも連携して市は「観光客を呼び込みたい」と期待を寄せてきた。

 しかし、認定から1年、同市を訪れる観光客の数に劇的変化はない。南北朝時代、楠木正成が何度も必勝祈願したという金剛寺の堀智真(ほりちしん)座主も「認定後の参拝客数はそれほど変わっていない」と明かす。金堂に安置される大日如来坐像が平成29年に国宝指定を受けたさいなどは参拝客が直近の2~3年前よりも約3割増だったのに比べ、日本遺産認定の影響は参拝者数に反映されなかった。「来ていただくための公共交通手段も少ない。周辺には観光名所や飲食店などもなく、多くの方に楽しんでもらえるような受け入れ態勢、環境が整っていない」と話す。

 地元での反応

 楠木一族の菩提寺を抱える観心寺の永島全教(ぜんきょう)住職も「参拝者が目に見えて増えるということはない」と話す。ただ、「地元の人の意識は徐々に変わりつつあるのでは。認定を機に有志が観光冊子の活用を考えだすなど、歴史文化を地域活性につなげようとする機運は高まってきた」と考える。

 「日本遺産の認知度そのものが不足していた。結果的に1年で大きな集客効果は得られなかった」。河内長野市の担当部局、環境経済部の島田俊彦理事もこう話すが、今は文化財の価値を地元で浸透させる段階だという。「市は今後、少子高齢化で定住人口の減少が課題となるため、市民を街に惹きつけることが重要。日本遺産は地域活性化の起爆剤になる」と信じる。

 関連事業に令和元年度で約1300万円、2年度は約1400万円の総事業費を投じ、住民への周知に力を入れる。元年は冊子「日本遺産ガイドマニュアル」や子供向け冊子を作り、動画投稿サイトにイメージ動画をアップ、シンポジウムも開催した。「市民や地域の民間企業の協力を得ながら自分たちで日本遺産ブランドを育てたい」と話す。

 中世、公家の九条家の領地「日根荘」と呼ばれていた地域にまつわる史料や文化財で認定を受けた泉佐野市。認定要件のひとつに800年前の荘園の姿や人々の暮らしを綴った公家、九条政基の日記「旅引付」があり、現存する街並みや農村地域と比較ができる。同市も関連事業に元年度は約2千万円、2年度は約6千万円を投じる。

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