「今から5年後の令和7年度末までを目指し、作業を加速していきたい」
昨年9月25日、菅義偉首相は出席した首相官邸での会議で、自治体間で異なる業務システムの統一について、こう発言した。
菅首相の肝いりで発足するデジタル庁は、政府の情報システム関係予算を一手に所管し、マイナンバー制度を軸とする行政のデジタル化を進める司令塔となる。
省庁の取り組みが遅れていれば是正勧告を出せるなど強力な権限を持たせる。根底には「各省庁、自治体のシステムがバラバラの仕様で構築されている実態が社会全体のデジタル化を阻害している」という菅首相の強い危機感がある。
坪田部長は菅首相の方針に賛同する。「自治体間の業務の共同化が進む。自治体が助け合い、人口が減少しても対応できるようになるだろう」。デジタル庁の旗振りで全国の自治体が「壁」をなくして膨大な情報を交換し、協力して社会の課題に立ち向かう-。そんな青写真が坪田部長の脳裏に浮かぶ。
自由にやりとり
「高齢化でさまざまな悩みを抱えた高齢者が増え、行政の作業はさらに細分化されて職員の負担は増える。対処するにはITの力が不可欠だ」
MSデジタル・ガバメント統括本部の藤中伸紀室長もこう強調する。
大阪府や神戸市が目指すスマートシティーは、DXによって府、住民、企業、病院などの間の「壁」をなくし、情報を自由にやりとりできるようにして住民サービスを高める構想だ。
府のスマートシティー事業のうち、「スマートヘルスシティ」と呼ばれるプロジェクトは、自治体や病院などが持つ住民の健康診断結果、電子カルテ、薬の処方箋などの情報を匿名化などの処理をした上で収集し、「情報銀行」のようなシステムにデータとして保管する。データは一定のルールのもとで人工知能(AI)で分析し統計をとったり、マーケティングに使えたりできるようにする。
データを生かし、企業は府民の実態に即した医療サービスや保険商品、健康管理アプリなどの開発をリアルタイムで行うことが可能になり、行政も、住民の健康維持に必要な施策を迅速に展開できるようになる。
スマートシティー実現に向け、大阪府は昨年8月、坪田部長が中心となり、245の企業・団体と共同でフォーラムを立ち上げた。その数は現在300以上に上る。神戸市も6月、MSと「包括連携協定」を結んだ。
坪田部長は「2040(令和22)年の自治体がどのような姿になるかを想定しつつ、検討を進めている」と強調する。府の場合、昨年末時点で881万人だった人口は40年に724万人にまで減少し、世帯の4割超が高齢世帯になるとみられる。対策は待ったなしだ。
現状「ゆでガエル」
だが、集められた個人情報が流出したり、悪用されたりすることへの懸念は根強い。個人情報保護法の壁もある。
DXをより効果あるものにするには、自治体間などの「壁」をなくしたデータの利活用が不可欠だ。
個人情報を公共目的のためにどう利用するかという議論を怠れば、行政のDX化は進まず、非効率性が温存される。そのツケは住民が高コストのサービスを負わされることになる。
坪田部長の目には、DX改革とセットで考えなくてはならない個人情報の取り扱いを社会全体が真正面から議論しているとは見えない。「変革を遂げなくても生き残ってきた日本社会は、『ゆでガエル』のようだ」とも言う。
コロナ禍が浮き彫りにした自治体のDXの遅れ。自治体が急変する環境変化のなかで「機能不全」に陥れば、住民の生命そのものが危ぶまれる。手をこまねいていれば、そんな事態が現実となる。((3)は明日3月17日に配信します)