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日本人の糖尿病網膜症発症に関わるゲノム領域を同定/シアノバクテリアの普遍的内部構造を可視化

 日本人の糖尿病網膜症発症に関わるゲノム領域を同定

 理化学研究所生命医科学研究センター 糖尿病・代謝ゲノム疾患研究チーム 客員研究員・今村美菜子 

 糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序や疾患による糖尿病、妊娠糖尿病の4つに分類されている。現在、日本の糖尿病患者数は約1000万人に上り、そのうち90%以上は2型糖尿病である。2型糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性(インスリンの働きが悪くなること)が合わさることで、血糖値が上昇し発症する。発症には、遺伝因子と過食、肥満、運動不足などの生活習慣が関わっている。糖尿病が進行すると、網膜症、腎症、神経障害といった合併症を発症する場合がある。日本の糖尿病患者数のうち約15~23%が「糖尿病網膜症」を発症しているが、これまで糖尿病網膜症の発症にどのような遺伝因子が関与するかはよく分かっていなかった。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、日本人2型糖尿病患者1万1097人(網膜症発症者5532人、網膜症非合併5565人)のゲノムを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、一塩基多型(SNP)を網羅的に解析した。さらに、別の2型糖尿病患者2983人のゲノムを用いた検証解析を経て、糖尿病網膜症の疾患感受性に関連する2つのゲノム領域(STT3B、PALM2)を同定した。この解析は糖尿病網膜症のGWASとしては世界最大規模である。また、SNPと疾患との関連を遺伝子単位で解析した結果、EHD3遺伝子と糖尿病網膜症との関連も明らかになった。

 本研究成果は、糖尿病網膜症の新しい予防法や治療薬の開発につながると期待できる。

【プロフィル】今村美菜子

 いまむら・みなこ 九州大学大学院医学研究科博士課程修了、博士(医学)。理化学研究所統合生命医科学研究センター(当時)研究員、副チームリーダーを経て、2015年11月より琉球大学大学院医学研究科先進ゲノム検査医学講座准教授を兼務。

 ■コメント=ヒトゲノム研究により疾患リスクの遺伝的多様性を解明し、精密医療の実現に貢献したい。

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 シアノバクテリアの普遍的内部構造を可視化

 理化学研究所放射光科学研究センター 利用システム開発研究部門 生物系ビームライン基盤グループ 生命系放射光利用システム開発チーム 客員主管研究員・中迫雅由

 生命現象をもたらすマイクロメートル(1000分の1ミリメートル)サイズの細胞を構成する微小な要素の構造や分布を可視化することは、細胞生物学における大きな目標の一つである。これまで、細胞の内部構造のイメージングには、蛍光顕微鏡、超解像顕微鏡、透過型電子顕微鏡、軟X線顕微鏡などの手法が用いられてきたが、それぞれに長所・短所があった。一方、「X線回折イメージング」では、X線パルスに対してさまざまに配向した粒子の投影像から平均化された三次元構造を取得できるという利点がある。

 「シアノバクテリア」は酸素発生型の光合成を行う原核生物で、30億~25億年前に地球上に出現し、地球大気を現在のように酸素を豊富に含む環境に変えていったと考えられている。また、共生によって真核細胞に取り込まれ、植物の葉緑体の祖先となったと考えられており、進化を紐解く上で非常に重要な生物である。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、細胞周期をそろえたシアノバクテリア細胞を多数散布凍結した試料に対して、独自に開発した低温試料高速照射装置「高砂六号」を用いて、理研が所有するX線自由電子レーザー施設「SACLA」においてX線回折イメージング実験を複数回実施し、シアノバクテリア細胞の三次元構造を可視化することに成功した。

 本研究成果は、破壊的実験であるX線自由電子レーザーを用いたX線回折イメージングの新たな構造解析法を開拓したといえる。

【プロフィル】中迫雅由

 なかさこ・まさよし 東北大学大学院理学研究科物理学第二専攻博士課程単位取得退学、博士(理学)。東京大学薬学部助手、理化学研究所研究員、東京大学分子細胞生物学研究所講師、慶應義塾大学理工学部物理学科助教授を経て2005年から同教授。

 ■コメント=放射光やX線自由電子レーザーを用いた細胞のX線イメージングに取り組んでいます。

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 「和光・筑波・仙台地区一般公開」を17日にオンラインで開催

 理化学研究所の研究成果や最先端の科学・技術に親しみ、理解を深めてもらうことを目的に、毎年科学技術週間に合わせて行っている和光地区一般公開を、今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策のため、筑波地区、仙台地区と合同でオンラインで開催する。当日は、特別講演やサイエンスレクチャーなどをユーチューブでライブ配信するほか、ズームを使って研究者と話ができるプログラムもある。小学生向けには、ズームを使ったクイズや研究者と一緒に分光器を組み立てる工作のプログラムも用意(事前申込制)。また、研究者に会えるバーチャル研究室公開や、一般公開限定の動画コンテンツ、各種レクチャー、連携大学院説明会、女子学生のための進路相談会など多くのプログラムを開催する。詳細は特設サイトで確認できる。

 【日 時】17日(土)午前10時~午後4時半

 【対 象】小学生~大学生、一般

 【視聴方法】ユーチューブでライブ配信

       事前申込制、ズームを使ったプログラムあり

 【特設サイト】https://openday.riken.jp/

 【問い合わせ】理研和光地区一般公開事務局

        wod-jimu@riken.jp

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