軽々に言ってしまえば、「森を見ず木を見よ。そして、木から森全体を眺めよ」である。遅生まれとやや遅生まれが偏差値51に、やや早生まれが偏差値50に、早生まれが偏差値48に、それぞれ横一線に並んでいるわけではない。生まれ月による差よりも、個人差(個性の違い)のほうが大きいという事実を、親がまずしっかりと認識することを第一義としたい。
▼我が子のポジションや個性を見極める
優劣を平均値で考えるのではなく、分布(の重なり)を踏まえて、まずは我が子のポジションや個性を見極めることだ。分布について図示するなら、合同な三角形を2枚重ねて底辺を固定し、それぞれの面積が変わらないよう頂点を少しずつ左右に動かした感じ、とでも言えばよいだろうか。大部分は重なっているのである。
早生まれであることが理由であるかどうかは措いても、「よその子よりも勉強する時間を長くすることで不利を解消しよう」と漫然と机に向かわせたり、「よその子よりも早くから塾に通わせることで解決しよう」としたりするのは、筆者には愚策に思える。それよりも、塾通いさせる前段階から
- 体格や運動能力、成績にコンプレックスを抱かせないようにする
- その子が得意なことを習わせて自信をつけさせる
- 語彙力やコミュニケーション力が鍛えられる取り組みを習慣化する
- 「自然遊び」など、非認知能力の向上に資する経験を定期化する
といったことのほうが、よほど後々のためになると筆者は考える。
▼早生まれが不利になりにくい中学・高校を選ぶ
加えて、大学受験時に早生まれが不利になりにくい中学・高校を選ぶという観点があってもよいだろう。ほとんどの難関校は、中学入学時と高校卒業時とでの平均偏差値の変化は僅かでしかない。一方で、最上位クラスではないが中・高の6年間での学力の伸びが大きい中高一貫校はある。
「早生まれであるが故に、中学受験までには先に生まれた子どもたちとの差が埋められなかった」と判断できるのであれば、そういった学校に進むほうが、学力を伸ばす上でも精神的な面でも、他の生まれ月の子ども以上に好ましいはずだ。「偏差値60超えの中学校に滑り込んで、成績は6年間ずっと下のほう」よりは、「偏差値50台後半の中学校に入って、6年間で徐々に席次を上げていく」といった策戦のほうが―大学受験までを視野に入れるのであればなおさら―上策に思える。
*1 川口 大司,森 啓明「誕生日と学業成績・最終学歴」『日本労働研究雑誌』2007年12月号
*2 内山三郎「小学生から大学生までに現れる生まれ月分布の偏り」『岩手大学教育学部研究年報 第73巻』2014年3月
*3 e-Stat政府統計の総合窓口「人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生上巻 4-2 出生月別にみた年次別出生数及び出生率(人口千対)」
【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら