世界の自動車メーカーからベンチマークとして注目されるフォルクスワーゲン(VW)・ゴルフにも、深い悩みがあっただろう。デビューから45年目を迎える今年、フルモデルチェンジを敢行。晴れて8代目を迎える伝統的モデルだが、先の読めない新時代の潮流に乗り続けるには、進む道に迷いもあったに違いない。
これまで3500万台を販売してきたゴルフは、世界の“指標”とされている。41秒に1台の割合で、世界のどこかで新車のゴルフがユーザーの元に届けられているというから、これはもうVWの一つのブランドというだけではなく、世界の「国民車」なのだ。背負うものが重すぎる。期待が大きすぎる。伝統か革新か。人気モデルゆえの苦悩の重さは想像に難くない。果たして新型ゴルフは、潔く見事に伝統と革新を両立してみせた。
伝統と決別したインテリア
まずそのスタイルは伝統の継承であろう。前後左右どこから眺めてもそのスタイルは、ゴルフそのものである。車名を聞かされなくても、目の前をかすめる姿を目にしただけで、それがゴルフであることを言い当てられる。残像だけでもモデルの正体がわかる。リアのサイドガラスとハッチバックまでのCピラーの造形はゴルフのアイデンティティである。そこからフロントに伸びる直線的なキャラクターラインでデザインは完結する。筆遣いははきわめて保守的だ。
だが、ひとたび車内に潜り込めば、そこには伝統的なゴルフの面影は霧散する。目の前には10.25インチのデジタルコクピットと10インチのインフォテイメントシステムが連続的に繋がる。本来あるはずの空調や音響のスイッチ類は見当たらない。その代わりに、各種設定のショートカットタッチパネルがある。
操作のほとんどはタッチパネルで階層を巡る必要があり、時には人差し指でスライドし、時には人差し指と中指の2本の指で横に払う必要がある。1本指では車内温度調節、2本指ならシートヒーターの温度調整といった具合に操作系はスマホ世代に馴染む感覚なのだ。ライトのオンオフでさえタッチパネルという徹底ぶり。ルームライトの照度調整もパノラマルーフの開閉も、タッチスライダーで操作するのである。
これほどまでエクステリアとインテリアの思想が異なるモデルも稀だろう。外観はまごうことなき伝統のゴルフであり、インテリアは伝統からの潔いばかりの決別である。