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没後40年の「横溝ミステリー」が欧米で翻訳続々 消えゆく日本の上流社会を求めて (1/2ページ)

 『犬神家の一族』『八つ墓村』などの名探偵・金田一耕助シリーズで知られる作家、横溝正史(1902~81年)。論理的なトリックと日本の土俗的な要素が混ざり合うその複雑怪奇なミステリー小説が最近、欧米で続々翻訳出版されている。12月の没後40年と来年の生誕120年という節目を控え、後進の作家らとともに異国で魅力が再発見されている。

 2作で5万部超え

 「横溝作品の英米での反響は驚異的です。今も順調に売れ続けている」

 英の独立系出版社プーシキンプレスの社主、アダム・フロイデンハイムさんは驚きを隠さない。

 同社は一昨年、金田一耕助が初登場する『本陣殺人事件』(昭和21年発表、英題・The Honjin Murders)を英訳出版。昨年には、地方の名士の遺産相続に絡む連続殺人事件を描く『犬神家の一族』(25~26年発表、英題・The Inugami Curse)も出した。一般に英語圏では翻訳物は不利ともいわれるが、2作合計ですでに5万部を超えている。好評を受け、今年から来年にかけて『八つ墓村』と『獄門島』も出版するという。

 イタリアでも一昨年以降『本陣殺人事件』と『黒猫亭事件』の翻訳が立て続けに出た。日本の「捕物帳」作品研究で博士号を取得したイタリア在住のエンリコ・パオリーニさんは「イタリアでも横溝作品の受けはいい。ネット上の評価で目立つのは、謎解きの構造が見事だという声。日本の探偵小説について知らない人でも、ひきつけられて一気に読んでしまった例が多いようだ」と明かす。

 密室状況を描く

 神戸市に生まれた横溝は昭和3年、江戸川乱歩や夢野久作らが輩出した大衆文化雑誌「新青年」の編集長に。海外の推理小説を精力的に紹介するかたわら、自らも耽(たん)美(び)的な色彩の濃い推理小説を執筆した。戦後は作風を一変させ、ミステリーの本場・欧米の作品顔負けの論理的な謎解きと怪奇性を、日本の風土の中で巧みに融合させた名作を相次ぎ発表。トリックの切れとその解明に重きを置く、いわゆる「本格ミステリー」を牽引(けんいん)する存在となった。

 江戸時代から続く旧家での婚礼の夜に響き渡る悲鳴と琴の音。鍵がかけられた離れ座敷では、新郎新婦が血まみれとなって息絶えていた。ところが、周囲に降り積もった雪の上には足跡がない-。

 英紙「ガーディアン」は4月、密室状況での犯罪を描く『本陣殺人事件』のそんな筋立てから書き起こす論評記事を掲載。横溝や乱歩のほか、後進の現役世代で、「新本格」とも称される綾辻行人さんの『十角館の殺人』や島田荘司さんの『占星術殺人事件』といった日本発のミステリー作品が続々翻訳され、多くの読者を得ていると報じた。

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