宇宙開発のボラティリティ

ジェフ・ベゾスの使命「ロシア製エンジンからの脱却」とは? (2/3ページ)

鈴木喜生
鈴木喜生

 ULA社は、ロケット自体の開発と運用を担うが、エンジンを開発するための専門部署を社内に持たない。そのため新規エンジンの開発は、外部企業に委託することになる。

 こうして行われた入札によって、ジェフ・ベゾス率いるブルー・オリジン社と米国のロケット開発メーカーの老舗「エアロジェット・ロケットダイン」社が、純米国産ロケットエンジンの開発に取り掛かることになった。エアロジェット・ロケットダイン社とは、先述したデルタIVが搭載するRS-68を開発したロケットダイン社と、軍事宇宙開発企業として名高いエアロジェット社が合併(2013年)してできた企業である。

イーロン・マスク、米空軍を訴える

 ウクライナ紛争が発生したころ、もうひとつ重大な事件が発生している。その国際紛争を機に、スペースX社がはじめて米国の軍事衛星の打ち上げを受注したのだ。

 イーロン・マスク率いるスペースX社(2002年設立)が、ボーイング社とロッキード・マーチン社がULA社の共同設立を2005年に公表した際、これを「軍事衛星の打ち上げサービスの独占による反トラスト法違反」として提訴した。スペースX社の主力ロケット「ファルコン9」がはじめて打ち上げられる遥か5年前のことである。イーロン・マスクはこのときすでに軍事参入する構想を持っていたのだ。しかし、このとき米国防総省はULA社設立を問題ないとし、翌2006年から同社への発注を開始している。

 2010年には、スペースX社がファルコン9の初号機の打ち上げに成功する。このときのファルコン9はまだ自律帰還するシステムは搭載しておらず、従来のロケットと同様、使い捨て仕様だった。

 そして2014年2月、ウクライナ紛争が発生すると、スペースX社は再度、米空軍を提訴。「軍事衛星打ち上げの長期契約をULA社と結んでいることで市場競争が妨げられている」と訴え、スペースX社の同事業への参入を求めたのだ。

 こうした状況のなか、2015年11月に珍事が起こった。米空軍が入札募集したGPS衛星打ち上げに応札したのがスペースX社による1件となったのだ。同時期に、米議会によってロシア製エンジンRD-180の使用停止が言い渡されたULA社には「使用できるエンジンがなかった」。ULA社にはデルタIVもあるが、超低コストのファルコン9には入札で敵うわけもなかった。自律帰還して垂直着陸する再利用型のファルコン9の初打ち上げ、初着陸が成功したのは、その翌月のことだった。

 こうした経緯を経て、翌2016年にスペースX社は、それまでULA社の独占状態にあった米軍事衛星の打ち上げ市場への参入を果たしたのである。

ブルー・オリジン「BE-4」 vs ロケットダイン「AR1」

 スペースXの躍進の一方で、米国内ではロシア製RD-180の代替エンジンの開発も続けられていた。

 エアロジェット・ロケットダイン社が開発するのは「AR1」。こちらは酸化剤に液体酸素、燃料にケロシンを使用する。アトラスVが搭載するRD-180は、ケロシンの一種であるRP-1を使用していが、AR1はそれと同種の推進剤の使用を想定したわけだ。そのため、アトラスVの基本設計を大幅に変更することなく、エンジンを換装するだけで済む可能性も秘めていた。

 一方、ブルー・オリジン社が現在開発中のエンジンは「BE-4」。このエンジンの酸化剤は一般的な液体酸素だが、燃料にはメタンが採用された。メタンは安く、燃費が良く、タンクを小型化でき、ロケットの構造をシンプルにできる。また、3Dプリンターを活用することで、複雑なエンジン内部構造の製造を容易にし、同時に製造コストを抑えられた。

 この開発レースは2014年にはじまったものの、翌年、超低コストロケットを武器にスペースX社が軍事産業に参入してきたため、ULA社においても新型エンジンだけでなく、大幅に打ち上げコストを低減した新型ロケットの開発が必須となった。その結果、アトラスVの後継ロケットとして「ヴァルカン」の新規開発が計画され、これに純国産の新型エンジンを搭載することが決定された。

 ヴァルカンは、スペースX社のファルコン9などのように、第1段自体が自律帰還して再利用できるわけではないが、第1段の2基のエンジンだけをパラシュートで降下させ、それをヘリで空中回収することで、コスト低減が図られた。

 そして2018年9月、ULA社はヴァルカンに搭載するエンジンとして、ブルー・オリジン社のBE-4の採用を決定した。老舗の手堅いケロシン燃料エンジンを破り、ベゾス率いるベンチャー企業のメタン燃料エンジンが勝利したのだ。

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