試乗スケッチ

トヨタ「GR86」・スバル「BRZ」 個性を持ち始めた“一卵性双生児” (2/2ページ)

木下隆之
木下隆之

 スポーツカーに対する両社の強い思い

 その細工はフットワークに及ぶ。GR86は、切れ味を求めたハンドリングであり、BRZはバランス重視である。激しく攻め込んで遊びたかったらGR86、穏やかな気持ちでツーリングしたかったらBRZ。そんな個性の棲み分けなのである。

 驚かされるのは、そのための細工が大胆なことだ。サスペンション剛性に影響するブラケットが、GR86は鋳鉄(ちゅうてつ)でありBRZはアルミ。スタビライザーの構造がGR86は中実であり、BRZは中空である。径も異なる。しかもBRZはスタビライザーそのものをシャシーと結合させているばかりか、ボディ剛性を引き上げるために金属のバーを追加しているのだ。サスペンションの構成部品の一つであるブッシュ類の剛性も変えている。血筋をともにする一卵性双生児といえども、育て方が異なるのだ。

 実はこれは、大量生産の自動車メーカーにとって簡単なことではない。この2台は同一の生産ラインに流れてくる。だが、それぞれの部品は異なる。混流生産方式が進んだ近代的なプロダクトでは容易に対応可能だが、生産コストは格段に跳ね上がる。原価率の開示はなかったが、組み込む部品がここまで異なれば、コストアップは避けられない。

 生産システムだけではなく工員の教育と熟練、サプライヤーの供給体制。もっと遡れば、開発もそれぞれが進めている。ともにテストしながらの開発にはなろうが、それでも個別に海外テストを繰り返しているという。1円のコストにも厳しい目を光らせる近代的生産方式において、開発費の負担は無視できない。 

 それほどの投資と苦労を覚悟をしてまでも、個性を主張したかったのであろう。カーボンニュートラルが叫ばれている最近の世界情勢の中、魅力的なスポーツカーを生み出したいという意気込みには驚かされた。

木下隆之(きのした・たかゆき)
木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。

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