ビジネスマンはアスリート

(2)近内京太・弁護士 ラン歴5年で超難関山岳レース完走「限界を決めない」 (2/2ページ)

 自分でできる限りはあきらめない

 《2018年、実力と“運”が必要とされる厳しい選考会を突破し、ついに出場権を獲得。選ばれた29人の選手の1人となった》

――レースでは序盤から上位に食い込んでいましたね

近内氏:

 実はちょっと狙ったところもありまして…。テレビに必ず映るであろう最初のロードの30キロのポイントを1位で通過したいという思いもあり、そこまで必死に頑張りました。実際の番組ではそのポイントの映像は放映されなかったのですが(笑)。案の定その後はバテて北アルプスではいったん7~8位まで順位を落としました。しかし、その後次第にレースに体が順応していき、3日目朝の中央アルプス手前のロードで予想外にトップに立ちました。

――その後は順調なレースでしたか

近内氏:

 実はトップに立ってからが厳しい時間でした。自分にとって人生で一番重要なレースで運良くトップに立った。少しでも長い時間トップでいたい。しんどいからペースを落としたいけど、すぐ後ろには速い人ばかりでペースは落とせない。「抜かれたくない」という気持ちと「しんどい」という気持ちの葛藤で、苦しい時間帯でした。このときはシンプルに、一歩一歩前に進むことに集中して乗り越えようとしました。

 トップで南アルプス後半に突入した5日目以降もさまざまなアクシデントがありました。暴風雨にみまわれてレース続行かを確認するために1時間かけてコースを引き返したり、唯一の連絡手段である携帯電話が故障したり…。精神的に一番堪えたのは、トップ争いをしている真っ最中に地図とツェルト(緊急時の簡易テント)を落としたときでした。ルール上、どちらをなくしても「失格」となります。どこで落としたのかもわからず、吹き荒れていた暴風でどこかに飛んでいってしまったとも考えられ、戻って探しても見つかる可能性は低いように思えました。

 せっかく5日間も走ってきたのに、一気にトップ争いから失格となるという状況まで突き落とされました。このときは5分ほど残された選択肢を黙考し、「タイムオーバーになるまで探し回ろう」と覚悟を決め、来た道を戻りました。運良く、地図もツェルトも1時間ほど戻ったところで発見でき、2時間ほどのロスでレース復帰が叶いました。

 6日目、再度トップに立ったものの力尽きて2位に落ちてからはペースが上がらず、南アルプスを下山して残り85キロのロード(舗装路)に出たときには、1位とは6時間ほど差がついていました。絶望的な差ではありましたが、10キロで1時間ずつ縮めれば追いつけるかもしれない。「まだいける」と思い、力の限り走りましたが、最後は猛烈な睡魔に力尽きて逆に一つ順位を落としてしまいました。

 自分にとってはスポーツも仕事も同じ

――3位でゴールしたときの気持ちと、戦績についての感想は

近内氏:

 途中の判断ミスやアクシデントがなければ…という少し残念な気持ちはないわけではありません。でも、当時の自分ができることはやり切ったので、その意味ではとても満足のいく結果でした。なにより静岡・大浜海岸にゴールしたのは7日目の午前8時。快晴の美しい景色の下、家族、同僚や大勢の仲間に迎えられながらゴールを喜び合えたことは本当に幸せな瞬間でした。

 2018年のTJARは、出場からゴールまで、なんだか自分の力だけによるものではないような気もしていて、本当に良い経験をさせてもらったと思っています。

――スポーツが仕事に与える影響、逆に仕事がスポーツに与える影響とは

近内氏:

 僕にとってはスポーツも仕事も同じことなんです。自分の性に合う、やっていて楽しい、自分が成長したと感じられたり、成果に喜びを感じられたりすることを、仕事は仕事として、スポーツはスポーツとしてやってるという感覚です。

 弁護士という職業は、実はスポーツと似ているんです。勉強したり、経験を重ねたりして自分のスキルを磨き、それを本番である裁判や交渉の場面で最大限発揮し、クライアントの希望を実現していくという仕事です。その意味で私の性に合っている、やっていて楽しい、自分がやりたい大切なものです。

 一つ意識しているのは、仕事にしてもスポーツにしても、周囲の理解を得つつ、自分が自由にやりたいことをやるために、それなりの努力が必要ということです。仕事も、趣味のスポーツも、家庭も、ほかの遊びも大切な人生の一部ですが、どれかを優先しすぎるとどれかにしわ寄せがいきますよね。自分の有限な時間と能力を、その時々の重要性に応じていいバランスで割り当てて、全部うまくやろうとしてハードワークをしているという感じです。

 それでも、家族をはじめとした周りには迷惑をかけることも多いですが、ありがたいことに、やりたいことを理解、尊重して、応援してもらえていると思います。今後もその時々で重要なことを見極めながら、目指したことには妥協せず向かっていきたいですね。

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
SankeiBiz編集部員が取材・執筆したコンテンツを提供。通勤途中や自宅で、少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。そんなコンテンツを目指している。

【ビジネスマンはアスリート】は仕事と趣味のスポーツでハイパフォーマンスを発揮している“デキるビジネスパーソン”の素顔にフォーカス。仕事と両立しながらのトレーニング時間の作り方や生活スタイルのこだわりなど、人物像に迫ります。アーカイブはこちら

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus